増幅器回路部は正常動作が疑わしい。技術秘匿目的か?
∵真空管動作電圧のいずれも疑問を生ずる値。
バイアス−C電圧、動作+B電圧32V、共に疑問。ヒーター+A電圧も若干の疑問を生ずる??
s.21資料の回路では+B100V、+A12Vと固定バイアス方式が採用されている。
意図する検波動作としては、上図s18年版が右図「B」、下図s22年版が右図「A」と推測するが、回路定数もなく正常動作範囲がどの程度得られるか、かなり微妙。
結局この車上装置は機能としては商用周波数を搬送波とする振幅変調連続コードを検波してコードを取り出しリレー接点レベルに転換させるものだが、「増幅器」部については内部詳細不明のブラックボックスとして見ることが適切なのではないだろうか。
(復刻者補足注記)
s.22第2圖(A)
s.18発表原回路再現に現物合わせ設計で無用に複雑化させてしまった疑い!s.22報告。
周波数分離感度向上に、せいぜい負荷抵抗設置か、並列共振点からの2極真空管検波方式程度の改良で済むものを、トランスも共振コイルもタップだらけにしてしまった!(当時の整流ブリッジはおそらく亜酸化銅整流器だから高電圧の整流が困難)
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本図の状態は此の場合を示し1TRの落下接点より1T軌道回路の送電端に装置された連動継電器VRを動作せしめる。
連動継電器VRの動作接点によりコード継電器120CdR 又は180CdR は2TRの状態に従って夫々起動し其の断続接点によって軌道回路1Tにコード電流が送出される。
コード電流は列車の先輪により短絡されて受電器の下を流れ受電器の線輪に電圧を誘導し増幅器に導かれる。
MRにはコード電流に相当した断続交流が流れコード数に応じて同じ断続数により其の接点を動作せしめ所要のコード数を車上に再現するのである。
復調器は 120R に付属する共振回路は2サイクルに共振するもので 180R に付属するものは3サイクルに共振し此の二つの継電器は同時に動作する事はない。
80R は共振回路を持たないから何れのコードの場合も動作する。
然して 80コードの時には 120R 180R は共に動作しない為に 80 コードのみにて動作する条件を得る事が出来る。
以上がコード電流により地上の制御条件を車上に再現せしむ機構の概略である。
以上の如き原理を用いて4項の(ロ)の如き機構を如何にして得るかと云う点になると更に種々の考察が必要である。
自動制御の起こる以前に機関士が手動制動手配を完全に講じたと云う制動表示を機械的に如何にして得るかと云う問題と列車が安全なる低速度で運転されてゐると云う速度表示を如何にして得るかと云う二つの点である。
我々は計画に当たって次の如き方法を採用する事になった。
(イ)制動表示の方法
空気制動が貫通制動として用ひられてゐる場合普通次の如き制動装置が使用される。
ブレーキ弁を機関士が扱うと釣合空気溜の空気を大気に放出し其の後に一定減圧量を先ず釣合空気溜に得る。
次にブレーキ管の空気を釣合空気溜の空気圧力と同じになる迄自動的に大気に放出して所要の制動度を列車に与えるのである。
第6圖 手動制動照査回路
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第7圖 調速継電器回路
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我々が必要とするのは注意信号区間に入った列車が定められた制動を行ったか否かと云う表示である。
即ち釣合空気溜の圧力が一定減圧に達したる後ブレーキ弁把手が重りの位置に置かれたと云う事実が機械的に表示出来ればよいのである。
此の方法は第6圖に示す結線によって行うのである。
釣合空気溜の圧力により動作する気圧継電器を設け其の接点が一定圧力以下になれば構成される様にしたものである。
次にブレーキ弁が制動位置又は重り位置に動かされた事を電気的に表示せしめる為に一つの電気接点をブレーキ弁に附加して此の二つの条件が両立した時に一箇の継電器を動作せしめる事にしたのである。
今之を手動制動照査継電器BRとしたのである、つまりBRが動作した事は機関士が手動制動により定められた制動を示すものである。
(ロ)速度表示の方法
現在種々の回転機(?)には色々の方法による調速機が用いられてゐるが何れも回転機を一定回転数に保つ為に用ひられるもので本装置の様な用途に用いられてゐるものは稀である。
最も簡単な方法は車輪の軸により回転し遠心力によって開閉する調速機を使用する事であるが、非常に回転数が高い時に機械的に安全であり且つ低速度に於いて極めて正確に且つ安定に働く遠心力調速機を設計するは非常に困難な事とされてゐる。
従って此の様な方式は一先づ採用しない事にしたのである。
次に電気的に速度表示を得る事にして先づ誘導型の交流発電機を車軸に取付け回転せしめ、然して其の速度発生する交流周波数とが比例する事を利用して調速機を設計する事にしたのである。
或る周波数以上の周波数の交流では継電器が動作し其の周波数以下では完全に落下する事を利用するものである。
第7圖は其の結線の略図を示したもので今日の電気通信技術に於いて盛に使用される濾波器を使用する方法である。
濾波器の設計を適当にするとその限界周波数に於いて急激に大なる電流を継電器SKRに流し得る。
その周波数より高い場合は交流発電機の電圧上昇と相まってSKRの動作は完全に保持されるのである。
又逆に限界周波数以下に於いては電流は急激に減少し発電機の電圧の小なる事との関係から継電器は落下するのである。
即ち一定回転数に於いて継電器の動作を極めて鋭敏に選別する事が可能である。
第8圖 コード使用方法
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第9圖
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以上の二つの基礎的要素の実験的に可能であるために次の様な装置により速度制御式の機構を得る事にしたのである。
次の結線図は其の全部を示したものであって、本装置を理解する為に先ず地上の信号装置との関係を第8圖に示した。地上の信号機の現示と其の軌道回路に送出されるコード電流の種別を書いたものである。
列車が緑色現示Gの区間を走る時には 180コードを使用し橙色Yの時には 120コードを使用した。赤色現示Rの所は0としたのである。
但し停車場構内の場合に限って場内信号機橙色Yの時には0コードを用ひて特殊の取扱ひを為さしめる事としたのである。
その主たる理由は場内信号機と出発信号機との間の距離は停車場の配線により非常に長短であり且つその制動の方法も決して単一なる操作でない為に先に説明せる車上確認式に依る事にした為である。
即ち本設計によると駅間に於いては速度制御式、停車場に於いては車上確認式に依ったものである。
但し通過列車に対して出発信号機がY又はGを現示する時は通常の速度制御式に依るものである。
<1.6.B>
今之等のコード電流によって車上のコード反応継電器との間に如何なる連動が行われるかを車上装置の系続結線圖により概説することにする。
(イ) 180コードで軌道回路に送出されてゐる場合、列車前頭の信号機が進行又は注意現示なる時は第8圖に示す如く軌道回路に 180コード電流が送出される。
之に従って車上の 180R継電器は励磁され次の第9圖に示す回路が出来る。
(+)― 180R― AR―入換―減圧溜気圧継電器定位接点―制動電磁弁BM―(−)
{ 180Rは継電器の動作接点を表す/ARは継電器の落下接点を表す}
BM が励磁されてゐる場合は装置は何等動作を起こさない。
即ち自動制動は働かないのである。
然し入換用開閉器を入換接点は切れてBMは無励磁となる。BMが無励磁となると5秒間警笛が鳴り且其の後に自動制動作用が起こる。
之は第10圖に示す様な空気弁機構によるのである。
而して自動制動が作用すると減圧溜に空気が流入し其の減圧溜に附加されて来た気圧継電器が動作しBMの回路は遮断されたまま保持される事になる。
其の後は 180Rが動作した本第9圖の如き回路が出来てもBMは再励磁される事はない。
第10圖 空気制動関係
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第11圖
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即ち自動制動が作用すれば列車は必ず停止することになるのである。
又 180Rが励磁されてゐる時には車内信号灯は進行を現示し列車が無条件に進行し得る事を示している。
(ロ) 120コードで軌道回路に送出されてゐる場合
列車が注意信号を通過すると軌道回路には 120コード電流が送られて来る。
車上に於いては 180R継電器は落下し 120Rが扛上する。
旋つて第11圖に示す回路が出来る。
又車内信号は 120Rの動作接点に依り注意を現示する。
即ちBMが無励磁となる為に警報が鳴る。其の時に機関士は確認開閉器を扱うのである。
120Rが動作してゐるから確認継電器ARが動作し保留される。制動を扱ってBMを動作せしめると次の回路によりBMは再励磁される。
(+)― 180R―BR―AR―確認開閉器定位―入換―減圧溜気圧継電器定位接点―BM―(−)
従って列車には手動制動による一定制動が作用し其の後其の状態は保持される。
万一手動制動を扱う事を忘れBRが動作しなかった時は5秒の後に10圖に示す作用弁の動作により自動制動で作用し減圧溜気圧継電器も動作する為に其の後BRを動作せしめる事があっても自動制動は緩解する事が出来ない。
此の場合は列車が停止したる後復帰開閉器を扱ってARを動作せしめ、とか接点と速度表示継電器SKRの動作接点に依りBMを再○○せねばならぬ、復帰開閉器は特別に封印されたもので之を扱った事は其の後判明する様にされてゐるので、機関士の過誤を監査する手段にされる訳である。
正常なる扱ひによって自動制動を回避する事が出来たとすると機関士はARの接点と 30km/時 以下になった後に落下するSKR(30)の接点に依りBRの接点を除く事が出来る為に制動を緩解して 30km/時 以下の速度で進行する事が出来る、即ちかかる状態で前方の停止信号に接近するわけである。
万一其の後速度を上昇せしめる事があればSKR(30) が動作する為に又制動を作用せしめてBRを動作せしめねばならぬのである。
又前方の信号機が停止より注意に変化した場合は 180Rが動作する事になり 180コード区間と同様になるのでSKR(30)とは無関係になり速度制限は解除される訳である。
従って其のままの状態で手動制動を緩解して進行しうる訳である。
(ハ)120コード区間より0コード区間に進入した場合、 120コード区間により 30km/時 以下で接近した列車が停止信号機にて一度停止し其の後運転規定に依る 15km/時 以下で進入した場合には既にBM回路は(ロ)項の説明通り○○されてゐるが第12圖に示すが如き回路により危険を防止するものである。
万一 20km/時 以上の速度になったとすると 120Rの落下と同時に E BMR の回路が出来る。
然し本回路に SKR(30)が入っているので 20km/時 以下では E BMR は動作しない。
本継電器は2(?)秒の後に動作するものであって E BMR が動作すると其の接点によってEBM非常制動電磁弁が動作し列車に非常制動を作用せしめるものである。
EBMRが動作した後は復帰開閉器を扱ってEBMRを無励磁として非常制動を緩解せしめねばならぬ。
(ニ)180コード区間より0コード区間に進入した場合、場内信号機が注意現示の場合には構内の軌道回路にはコード電流は流れてこない。
前記の如く停車場の制御方式として車上確認式に変更されるのであるから場内信号機通過と同時に確認扱いを行うと自動制動機構は切り離されてしまふ。此の場合の電気結線圖は次の様になる。
第13圖に示すが如く 180R継電器が落下する事 80R継電器が落下する事によりA'Rの回路が出来る。
(+)― 180R―減圧溜定位接点― 80R―入換―確認開閉器反位接点―R―A'R―(−)
従ってA'Rは其の自己接点により保持される。
120コード区間より0コード区間に進入した場合はR継電器が落下したのであるが 180Rコードより0コード区間に進入した場合にはR継電器は落下せずその自己接点により保持しうるのである。
A'Rが保持されると次の如き回路によりBMを再励磁(?)する。
(+)―A'R―確認定位接点―入換―減圧溜定位接点―BM―(−)
従って自動制動機構に保持され且つ 20km/時 以上の速度に於いてもEBMの回路はA'Rの動作接点により遮断せられ非常制動は起こらない。
若し確認扱いを行わなかった時はA'Rは動作せずBMの無励磁になる事により自動制動と非常制動○もEBMの回路が同時に出来て非常制動により列車は停止する事になる。
(ホ)非設備区間を列車が走行する場合
コード切換装置を用した被制御区間を走行してゐた列車が通常の線路に出て行った場合に特に装置を切り離す操作を機関士に於いて取り扱う事は色々の意味で間違ひを起こし易い。
従って自動的に車上装置を保留せしめて進行する必要がある。
又逆に装置が保留されてゐた列車が被制御区間に進入した場合は逆に自動的に制御状態に帰る必要がある。此の目的の為にかかる区間の出口に80コードを送出する軌道回路を設けて自動的に保留することにしたのである。
第14圖は此の状態を示したものであって、車上の回路は第13圖に示す如きものである。
80Rが動作すると 80PRが動作してBMが保持される。
又 180コード又は 120コードが来れば 80PRは落下して通常の制御状態に帰るのである。
此の様な方法は地上装置が故障の時にも使用されるので或る停車場から次の停車場に行く間の地上の電源が皆無になった時には其の停車場を発車する時に通信閉塞用開閉器を扱って 80PRを人為的に保留せしめる事にしたのである。
此の開閉器は通常使用されれば制御状態に於ても装置全体を無効にするので特殊な鍵を用ひて此の開閉器を扱ひ列車運転中は之を扱う事が出来ぬ様にしたものである。
以上現在設計中の本装置の大要を説明したものである。
実際問題になると更に不都合な点が発見されると思われる。
然し本装置の如きものは最善の方法を取らぬ以上常に欠点を残し装置の重大使命から遠ざかって行く傾向がある。
又理想を実現せんとする強い意欲が無ければ一つの基礎をも築く事が出来ぬものと云う信念を持って材料の点真空管の寿命の問題等に未だ検討を加うべき事柄を持ちながら実施せんとする固い決意を持ってゐるのである。
本装置の案は鉄道省資材局動力車課業務局保安課の各関係官の並々ならぬ助言と我々施設局通信課員の努力に負うべき点が多い。
又信号製作会社京三製作所の各専門技術者の技術的援助も大きなものがある。
計画途中であるが現今の社会情勢に鑑み其の実現段階の一部を発表し多方の批判を仰ぎ度く敢えて一文を寄稿せる所以である。
(終筆者野村正俊氏は最近関西連合支部に於いて、戸田芳郎氏は門司連合支部の講演会に於いて自動列車停止装置に就いて御講演されたのである)(終り)
昭和 18 年 7 月「信号」16 巻 4 号 p178〜185 記事全文
2014/04/30復刻
昭和 21 年 11 月「信号保安」1 巻 1 号 p18〜22 記事全文(1/2)
2014/05/12復刻
鈴 木 嶺 夫 (運輸省電気局通信課技官)
緒 言
鉄道に於ける信号保安設備は列車運転に対し直接その輸送能力を左右するものであるが故に、之を最も効果的に施設するの必要は謂う迄もないことである。
而して現在迄の設備は列車乗務員が信号の現示に忠実に従った時にのみ、その保安も確保されるものであるから、信号を意識的又は無意識的に無視した場合危害を生ずるのは当然の事である。
従って之を防止すべく危害を生ずる惧れある時に自動的に制動を掛けようという考が出るのは当然である。
これは消極的な方法と謂えるが寧ろこの装置を使って列車の輸送力を極限迄持って来得る積極的な施設と考ふべきである。
自動列車制御装置を使えば如何に重大事故が防止され得るかと云う事は○表に依って示された所であるが、今昭和 20 年 8 月 15 日の終戦の前後一年間の列車の追衝突の原因別件数は次の如くである。
原因\線区 | 東 海 | 山 陽 | 鹿児島 | 電車 区間 | 東 北 | 常 磐 | その他 | | 合 計
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| | | | | | | |
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1.仮 眠
| 11 | 4 | 0 | 2 | 0 | 0 | (2) | | 17 (2)
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2.信号誤認
| 4 | 1 | 1 | 2 | 0 | 1 | 2 | | 11
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3.速度節制を誤る
| 1 | 2 | 2 | 1 | 2 | 0 | 2 | | 10
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4.信号冒進、不確認
| 5 | 6 | 2 | 4 | 3 (1) | 3 | 2 (7) | | 24 (8)
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5.信号確認不能
| 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 (1) | | 4 (1)
|
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6.信号取扱不良
| 0 | 0 | (2) | (1) | (2) | 0 | (17) | | (22)
|
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7.制動機不良
| 0 | 1 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | | 3
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8.車両接触限界留置
| 0 | 0 | (1) | 0 | 0 | 0 | (4) | | (5)
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| | | | | | | | |
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合 計
| 22 | 15 | 5 (3) | 11 (1) | 6 (3) | 4 | 7 (31) | | 70 (38)
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| ( )は非自動化区間に於けるもので別掲である。
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右上表中取扱不良とあるは信号機復位失念又は進路不確認に基づく信号機降下で何れも非自動区間のものである。
終戦前後の影響は大差なく只取扱不良による 22 件中 6 件が終戦前のものであり、16 件が後のものである事は復員の未熟練者によるものか士気弛緩か何れかであらう。
右上表中 1〜5 号は全体の約 72%で之は自動列車制御装置により防止し得るものである。
第3項の一旦停止後速度の節制を誤ったものは連続制御式なら完全に防げるし、自動列車停止装置でも車内信号機を併用すれば前途の支障が車内に反映される丈けその大部分は防止し得るものである。
第6項及第8項は全体の 25%を占めるが、之は自動信号化により防ぎ得るものである。
表から見ると自動区間で追突衝突が多い事は夫れ丈輸送量の大きな事を示すわけである。
又事故件数では東海、山陽、電車区間の順になっている。
表中第 1〜5 項中の事故による車両破損は機関車 36、客車 50、貨車 170 両で今機関車 C59 が約 205 万円、客車が約 59 万円、有蓋車約 11 万円と見れば総額一億四千二百万円、年間 7200 万円の損害となる。
勿論全部使用不能とはなるまいがその破損率は当然大きい。
又列車事故と称する運転事故中でも重要な衝突、接触、トロリー衝撃、脱線の4件に就いて見るに、その件数は百万Km当り昭和18年より著増し 18 年 0.96、19 年 2.26、20 年度 3.1 と芳しからぬ躍進振りである。
又その線区別に見ると 20 年度では山陽 77、東海 57、鹿児島 42、函館 42、東北 37 件となってゐて山陽線は相変わらず多い。
緒我国に於ける最初のものは汽車会社が宣伝用として米国ナショナル会社のマグネット型のものを輸入して、大正 10 年 7 月東海道線汐留品川間、同 14 年 2 月尼崎線塚口○崎間及同 15 年 3 月横浜線菊名小机間に於て試験したのが嚆矢である。
試験成績は良好であったが設備費が高かったし、当局もやる目算ではなかったのでその儘となった、
其の後東京地下鉄道が昭和 2 年 12 月開通に際し、GRS製の打子式電動機型自動列車停止装置を使用した。
省に於いても昭和 3 年末にGRS会社へ打子式のものを注文し、昭和 5 年 3 月菊名小机間で試験した。
この時は大井工機部製のトリップブロック式(車上装置)のものを使った。
何れも直接吐出弁を作用させるもので面白くなく、其の後中継弁を置いて昭和 7 年 10 月同区間で再試験した。
大体成績が良かったので 8 年 1 月有楽町駅の上下場内及その後方一基に計 4 基取り付けて試験した。
信号制御は部分重複式とした。
この試験での問題は地上車上両装置の重なり寸法で大体 10〜20 粍としたのだが、実際には車輪が軌条の何れ側に寄るか又軌条の沈下と枕木に取り付けた地上装置の沈下と異なったりして、結局重なりの範囲が著しく広い幅となった。
従って当時之を信号機の内方に取付けて徐行すれば夫れ迄に地上の腕が降下して無事通過出来る様にしたのだが、計算によれば翼(?)型軌道継電器を使った場合この電動機型の地上装置を信号機の内方 3 メートルに置けば、重なり 10〜20 粍に於て徐行速度約 17〜20 km/時 と出るのだが、実際は上述の如く重なりの変化の為徐行速度は約 15 km/時程の幅を持ち、之では運転士が一体何kmで徐行してよいか分からぬので実用上困ると云う事になった。
其の他地上の腕に石が挟まったり、車上装置の打子が踏切道其の他思はぬ所で衝撃されたりしたので、その儘実用化されずに終わった。
一方大阪地下鉄道は昭和 8 年 5 月京三製の電空型打子式のものを部分重複閉塞区間に使用した。
以上は何れも自動列車停止装置であり、其の後本問題に対して積極的動きもなく数年を経過した。
我国最初の海底隧道たる関門連絡線の工事が施工されるに際し、この隧道内の信号保安設備を如何にするかと云う事が問題になった。
そして当時下関門司間の運転時隔を3分とし、この区間の特異性を考慮し同区間に自動列車停止装置を設備し、信号機制御は重複式となす事に決定した。
但し停止装置の形式は連続コード式とするか打子式とするかは試験結果に俟つ事とした。
斯くて昭和 15 年 7 月 沼津及平塚附近で両形式の比較試験をしたが決定を見るに至らなかった。
其の後 16 年秋 山陽本線網干駅で追突による未曾有の大惨事を起こした為、省内に事故防止に関する論議が旺となり関係局間に自動列車停止装置の急速施設に関し種々論議を重ねたが、新たに提案された断続誘導式、車内信号装置等を○って議論尽きず約1年間討論された。
而して車内信号丈けでは事故の完全防止と迄いかぬし、打子式は車両接触限界を侵す為其の他外的条件に支配される事が多いので、終には断続誘導式と連続コード式との比較と謂う事になった。
斯くて昭和 17 年 12 月 30 日関係者打合せの結果、東海道山陽鹿児島各本線に連続コード式を採用する事に決まり、尚東京大阪附近電車区間にも同方式を採用する事になった。
東京鳥栖間に本装置を施設する場合の費用及資材比較は(全重複制御にて)次の(右表の)如くであった。
種別\経費・資財指数 | 経 費 | 普通鋼 | 特殊鋼 | 電気銅
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連続コード式 | 100 | 100 | 100 | 100
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断続誘導式 | 83 | 58 | 175 | 229
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打 子 式 | 73 | 71 | 174 | 97
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之から見ると断続誘導式は費用が余り廉くない代わりに、特殊鋼や銅が沢山入用な事が分かる。
だから連続コード式では制御が連続的で危害のあった時には何時でも制動が掛かるし、風雨吹雪霧の時でも車内信号の併用で前途が確認出来るし、速度制御が行えるなどの利点がある上前記の予算資材の表を勘案すれば、この方式が良いと云う事が分かるであらう。
この方式が決まった時に汽車区間並に汽車電車併用区間は中間信号機は存置しておくが、電車区間では大体2分間隔運転をすると見ると信号機の設置は 1 分 40 秒位に施設する必要がある。
而してこの場合停車時分が大きく響いてくるから当然クロージング・イン方式を導入する事となる。
すると信号機間隔は場内付近では 100米位になるので、信号制御は勿論重複制御とするが信号機の林立によって運転士の労苦を増す。
殊に夜間は信号機の順序が不明で事故の原因となるので車内信号で救済する事とした。
即ち中間信号機は廃止して但し場内信号機丈けは地上信号機を置かうと云う考え方であった。
<2.3.2>
偖閑話休題、超えて 18 年1月陸運本部会で前記打合通りの施設方式と施設区間が正式に決定され、同年 2 月 15 日の次官通牒で「運転事故特に追突事故防止に関する件」中に之が明示された。
斯くて省の方針が決定したので本省通信課では一速度制御式の具体案を作成したが、打合せの結果業務局の一速度制御式案を取入れて決定案を作った。この決定した方式は次の如くである。
第1圖 図
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- イ.列車が信号機の進行信号現示区間を運転中は何等の取扱を要しない。
- ロ.列車が場内信号機の注意信号現示を超えて進入する場合、乗務員が確認扱いをした時は装置を無制動に保留させ、若し之を忘れた時は自動的に非常制動を掛けて停止させること。
- ハ.列車が中間信号機の注意現示を超えて侵入する場合、乗務員が確認扱いと一定量の制動管減圧をした場合はその装置を無制動に保留させるが、若し之を誤った時は自動作用により常用制動で停止させること。
- ニ.前項の場合乗務員が制動した場合で且時速 30km以下になった時は制動を緩解できること。
但し 30km/h以下とならぬ内に緩解したら自動的に常用制動が掛かって停止させること。
- ホ.前項の場合 30km/h以下となり制動緩解しても、30km/h以上に加速した時は再び制動することを要し、若し之を怠れば自動常用制動で停止させること。
- ヘ.自動作用による常用制動中は制動弁把手を緩め位置に移すも弛め得ない装置とし、必要あれば非常制動をなし得ること。
- ト.列車が中間信号機の停止現示区間を超えて運転する場合、時速 20km以上となったら自動的に非常制動で停止させること。
- チ.自動的に制動が掛かって停止した場合は運転開始に先立ち復帰操作をさせること。
- リ.通信閉塞式で運転する場合は通信閉塞用開閉器を操作することの依り装置を無制動に保留させること。但し再度コード電流を受けたら自動的に復活すること。
- ヌ.場内信号機故障の為手信号により運転する場合は、手信号開閉器を扱う事により装置を無制動に保留させること。但し再度コード電流を受けた場合は自動的に復活すること。
- ル.非設備区間に進出する場合は自動的に装置を無制動に保留させること。但しコード電流を受けた場合は自動的に復活すること。
- オ.入換をする場合は前記の方法に依るか、若くは入換用開閉器を反位とする事によりコード電流の有無に関わらず装置を無制動に保留させること。
以上を満足させる結線図は第1圖の如くである。
斯くて新方式による第一回製品につき 18 年 12 月沼津及平塚附近で試験を行ひ、不備な点を調整又は変更した第二回製品に就き 19 年 3 月下旬山陽線長門一宮、埴生間で試験を行った。
この結果新製品は戦時下の悪条件にも関わらず次々誕生し、地上装置は 19 年 11 月末小郡下関間が完成し、20 年 5 月には関門間の全部及広島小郡間の 90% が出来上がった。
一方車上装置の納入も数十台を超えるに至ったが、不幸 20 年春の空襲で倉庫に納入されてゐた大部分を焼失し、製作工場又焼失してこの工事は遂に一頓挫を来すに至った事は返す返すも残念な事であった。(以下次号)
(筆者は運輸省電気局通信課技官)
昭和21年11月「信号保安」1巻1号 p18〜22記事全文(1/2)
2014/05/12復刻
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昭和22年1月「信号保安」2巻1号 p60〜63記事全文(2/2)
2014/05/17復刻
茫然自失終戦を迎えた我々は、之ではならじ日本の復興は吾人の手によりとさらでだに増加する運転事故を減少せしむべく本装置の再興に努力をした。
上述の方式は運転士の過失を微に入り細に穿ってカバーする方法である丈けに、装置は第1圖に見る如く複雑であるし扱い方も仲々面倒なので観点を新たにして関係者打合せの結果、或る程度乗務員の注意力及技量に俟つ事として其の機構の簡易化を計った。
即ち之を略言すれば車内信号現示の変わる度毎に警音を発し確認扱いで之を鳴止める。
停止信号を侵すと警音と共に非常制動が作用するが、確認扱いをして進入すれば自動制動は掛からないのである。
その方式は
- イ.進行信号区間では車内信号は進行を現示する。この場合何等の取扱をも要しない。
- ロ.減速信号区間では車内信号は減速を現示すると同時に警音を発し乗務員に警告をする。
この場合確認扱いをすれば警音は鳴止む。
- ハ.注意信号区間又は警戒信号区間では車内信号は注意を現示し同時に警音を発し乗務員に警告をする。
この場合確認扱いをすれば警音は鳴止む。
- ニ.停止信号区間では車内信号は停止を現示する。
この場合確認扱いをしないと警音を発すると同時に自動的に非常制動が掛かる。
之を防止するには乗務員は確認扱いをなしつつ本区間に進入し、車内信号が停止現示をする迄確認開閉器を反位とする。
- ホ.自動制動が作用した時は停止後復帰開閉器を気圧継電器が復帰する迄反位にする事により制動が緩解される。
- ヘ.半自動信号機が故障の為手信号で進入する場合は(ニ)項に準じて確認扱いをする。
- ト.非設備区間に進入する場合、通信閉塞式施行の場合及び入換作業をなす場合は、遮断開閉器を反位とすれば本装置を無制動に保留する。
この場合車内信号は「○ホ」を現示する。
前記作業が終わったら遮断開閉器を定位に戻す。
- チ.停車場構内では主信号機の進路は凡てコード電流を送出する様設備する。
第2圖(A) コード反応継電器の動作圖
(注:s.18発表原回路再現に現物合わせ設計で無用に複雑化させてしまった疑い!s.22報告)
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以上の改良案が従来のものに比べて異なる点は次の如くである。
- イ.速度制御を廃したこと。
手動制動及速度調節を速度制限機能内に操作する事が稍困難の為、
警音のみで乗務員に注意を喚起し速度調節は乗務員に任せた。
- ロ.手信号開閉器を廃した事。
取扱を簡単にする為確認開閉器による事とした。
- ハ.非設備区間に進入の時自動的に保留となり再びコードを受けた時自動的に使用状態に復帰する方法を廃したこと。
乗務員に或る程度責任を持たせた事
及び取扱をニ及びホ項と同扱いとして取扱の簡易化を計った。
- ニ.通信閉塞用開閉器を廃したこと。
従来は之を取扱ひ通信閉塞式で運転中地上信号電源の停電が復活した時は自動的に使用状態に復帰する方式であるが、本案では機能及び取扱を簡単にすると云う以外に、一旦通信閉塞式で運転する時は当然次駅迄この方式によると云う観念を明らかにした方が妥当である。
- ホ.入換開閉器を遮断開閉器と名称変更をして非設備区間用及び通信閉塞式運転の場合にも之を使用したこと。
取扱簡易化の為である。
- ヘ.停車場構内総ての本線路にもコード電流を送出し得る様にしたこと。
車内信号としての価値を高める為である。
第2圖(B) 列車制御装置配線圖
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第2圖(B)はその改良案であって第1圖に比して相当簡単な事が分かるであらう。
即ち継電器数は電磁弁を含めて 13 ケが 7 ケに、開閉器又は梃子 5 本が 3 本に、気圧継電器2ケが1ケに、配線接点 67 ケが 26 ケに減じている。
之の動作説明は次の如くである。
猶結線図を辿る場合継電器を動作接点と落下接点を区別するため、例へば 1 ACR は 1 ACR の動作接点、 1 ACR は同落下接点を示すが如くした。
- イ.進行信号区間運転中
180コードを受電する場合、180R、80Rが励磁されるから次の回路より車内信号は進行を現示する。
(+)―COS―8OR
―18OR―進行現示灯●―(−)
- ロ.減速信号区間進入の場合
80'コードを受電する事に依り 120R と 180R とが無励磁となるから、次の回路により車内信号は減速を指示し且つ警音が鳴り乗務員に注意を促す。
(+)―COS―80R―180R―120R―減速現示灯●―(−)
(+)―COS―80R―180R―120R―2ACR―電響器―(−)
この時確認開閉器を反位とすれば(自動復帰)次の回路で 2ACR継電器の動作を保留し電響器回路を開き警音が止む。
(+)―COS―80R―180R―120R―{AC2S2//2ACR} 電響器―(−)
- ハ.注意信号区間進入の場合
120 コードを受電する事により車内信号は注意を現示し且つ警音が鳴る事、前項に同じ。
(+)―COS―80R―180R―120R―注意現示灯●―(−)
(+)―COS―80R―180R―120R―1ACR―電響器 B―(−)
この時確認開閉器を反位にすれば次の回路で 1 ACR が動作保留し電響器回路を開放する.
(+)―COS―80R―180R―120R―{ACS1//1ACR}―1ACR 電響器 B―(−)
- ニ.停止信号区間進入の場合
コード電流がゼロとなるから総てのコード反応継電器が落下し、次の回路で車内信号は停止を現示し且つ警音が鳴り同時に非常制動が作用する>
(+)―COS―80R
―停止現示灯●―(−)
(+)―COS―80R―3 ACR
―電響器 B―(−)
(+)―COS―80R―{3 ACR//
AS2}RS1
―非常制動電磁弁 EBM―(−)
EBM 回路中 AS は非常制動作用と共にその接点を構成し、其の後は確認開閉器を反位として 8ACR を動作させても EBM の励磁を継続して非常制動効果を確実ならしめる。
列車停止後は復帰開閉器 RS の封印を破り之を反位とすると、RS1>の開放により EBM を無励磁にすると同時に、次の回路で 3 ACR を動作保留し EBM 回路中の 3 ACR の接点を開放する。
(+)―COS―80R―RS2//
3 ACR―3ACR継電器―(−)
但しこの時復帰開閉器は気圧継電器が動作してその接点を開放する迄反位に押し続けなければならぬ。
さもないと RS 復帰後再び AS で電磁弁は再励磁されるから制動の緩解が出来ない。
若し停止信号区間に進入に際し確認開閉器を反位とする時は(この開閉器は車内信号が停止現示となった時手を離す)次の回路で 3 ACR が動作保留し警音も非常制動も作用しない。
(+)―COS―80R―ACS3//
3 ACR―3ACR継電器―(−)
- ホ.半自動信号機故障の為手信号で進入する場合は前各項に依り確認扱いをする。
- ヘ.非設備区間運転、通票閉塞式運転及入換作業の時は遮断開閉器 COS
を反位として行ふ。その時は次の回路で車内は「○ホ」を現示し其の他の回路は総て解放される。
(+)―COS―保留現示―(−)
前記の運転又は作業が終わった時は遮断開閉器を定位に戻す。
猶上記の内気圧継電器の調節が問題である。
即ち非常制動が掛かって制動管が減圧されたらなるべく早く接点を構成して呉れた方が自動制動後の確認扱いを無効にする事から云って必要であるが、一方信号機の停止現示で一旦停止後徐行進入した場合、速度が上がり過ぎた為制動を掛け乍ら進む場合に、この制動管減圧でこの接点が閉じて急に非常制動が掛かる惧がある事と、割に僅かの減圧で接点構(?)成すると云う事は自動制動で停止後復帰する迄長く RS を押さねばならない事になる。
併し前者は大体制動を掛け乍ら停止信号区間に入る可きものでなく、又速度を上げ過ぎて自ら制動を掛ける可きでないから接点の構成は高い圧力の處で差支えないと思う。
後者は自動停止した以上この押してゐる時間は問題になるまい。
夫から構内を生かす関係上転轍機及轍叉附近の死区間で非常制動が掛からぬ様確認継電器 ACR は 0.3 秒位の緩放時素を持たせてある。
昭和22年1月「信号保安」2巻1号 p60〜63記事全文(2/2)
2014/05/17復刻
著作権上の保護は50年のため、s22.(1947年)の本記事は1997年以降復刻可。
雑誌記事のため執筆者が公務員担当技術者でも公文書でなく著作権は存在。
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