鉄道省ATS

資料名発行年月記事標題執筆者
信号」16巻4号p178〜185s.18.7 自動列車停止装置 鉄道省施設局通信課課長 野 村 正 俊
鉄道省施設局通信課技官 戸 田 芳 郎
信号保安」1巻1号p18〜22s.21.11 自動列車制御装置に就て 運輸省電気局通信課技官 鈴 木 嶺 夫
信号保安」2巻1号p60〜63s.22.1 自動列車制御装置に就て(続) 運輸省電気局通信課技官 鈴 木 嶺 夫
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【 INDEX 】

自動列車停止装置  信号」16巻4号p178〜185 発行s.18.7  鉄道省施設局通信課 野村正俊・戸田芳郎 <1>
  緒  言    <1>
  1.列車速度と信号設備    <1.1>
  2.保安度の問題    <1.2>
  3.作用方法    <1.3>
  4.制御方式    <1.4>
  5.連続コード式の原理    <1.5>
  6.自動列車制御装置の構造    <1.6>
  結  言    <1.7>

自動列車制御装置に就て  信号保安」1巻1号p18〜22 発行s.21.11 鈴 木 嶺 夫  <2>
  緒  言    
  列車事故の状況    <2.1>
  我が国の本装置発達経過    <2.2>
  運輸省に於ける採用方式    <2.3>
自動列車制御装置に就て(続)  信号保安」2巻1号p60〜63 発行s.22.1 鈴 木 嶺 夫  <3>
  最近決定せる方式    <2.4>


自動列車停止装置  <1>

 信号」16巻4号p178〜185 発行s.18.7  鉄道省施設局通信課 野村正俊・戸田芳郎

緒  言    <1>

 鐵道に於ける列車運転の技術の内如何なる運転時隔を保って列車を運行せしめたらよいかと云う問題は単に列車の加速力、走行抵抗及びブレーキ力等によってのみ決定されるものではない。 即ち線路と停車場の位置によって色々と考えねばならぬ点が多い。 嘗つて自動閉塞信号設備を利用しなかった鐵道に於いては停車場の位置は決定的に運転時隔を定める因子となったのである。

 停車場とか信号場を沢山設ける事は運転費の増加する割に列車回数を増すことによる利益が少ない。 多くの場合信号場を増加して行く方法では円滑なる運転が行われ難い結果となるのである。 特に短時間に多量の人員や貨物を輸送する必要がある場合には列車の集中運転を行わねばならぬ為に、信号場を設けてもその利用率が極めて小となるのである。 之と反対に自動閉塞式運転に於いては極めて簡単なる設備で集中運転を行い得る結果経済的に運転時隔を短縮し大量輸送が可能になるのである。

 自動閉塞式により此の様な高密度の運転をなす場合に信号機の数は極めて多数となり大きな停車場又は複線以上の線路等にあっては自己の線路以外の信号機も同時に認識しうる為に見誤りの危険が生ずる結果となる。 従って従って自動信号機数を増加すれば運転時隔を短縮し得る事が解っても実際問題となると差程簡単に行かぬものである。

 此の様に信号機を増加し度いが乗務員の過誤を考慮に入れる必要を生じた場合には、信号設備と列車とが単に機関士とか運転士の注意力に依って結合されるのみでなく万一機関士が過誤を起こす時機があれば列車を自動的に停止せしめる機構が必要になって来るのである。 特に高速度になると制動距離が増大する為に制動距離と信号機の見通し距離との関係から保安上常に危険な状態に於かれる場合が起こるのである。 此の場合の解決方法として速度信号方式を用いる事と自動列車制御装置を用いる二つの方法が考えられる。 勿論此の二つの方法を結合する方法が最上である。 又極めて高速度の列車運転に於いては自動列車制御装置は絶対不可避な装置となるものである。

1.列車速度と信号設備    <1.1>

 今日の運転方法に於いては信号と列車は如何なる関係になっているかを考慮するに先ず停止信号が前途にあれば列車は必ず停止せねばならぬという原則が定められる。 停止信号迄に停止する事が完全に行われる為には通常の見通し距離の内に於いて最悪の場合非常ブレーキを作用せしめて停止するという事を考えねばならぬ。
第 1 圖

言い換えると非常ブレーキによって停止し得る速度以下の運転が可能である。 もし信号機の見通し距離が不足する場合には中継信号機を設けるか列車速度を其の信号機の見通し距離にて安全なる運転が出来る限度迄低下せしめなければならぬ。 中継信号機を多く使用する事は結局信号現示を複雑にする事に等しく、複線以上の区間ではあまり上手な方法ではない。 列車速度の増大は信号現示の見通し距離不足を何とも解決する方法がない為に通常第1圖に示すような信号方式に変更されるのである。

 即ち信号現示を複雑にすれば高速度に於いても運転は可能になる訳である。 即ち今日実用されている二区間閉塞式で建植された信号設備を其の儘改良して三区間閉塞式即ち四現示方式にすればよいのである。 更に四区間閉塞式に移行して行くのであるが此の様な方法のみで高速度運転の安全が確保されるものではない。 其の困難なる理由は信号現示を確認しても信号現示との距離を目測する事が困難になるからである。 故に信号設備に何等かの装置を付加して更に正確に制動開始時期を機関士に知らしめねばならぬ。 即ち車内信号を用いるか又は自動列車制御方式を用いねばならぬ。

2.保安度の問題    <1.2>

 列車速度が所謂超高速度にならない線路に於いても高密度の運転が行われてゐる時には保安度の問題が更に重要になってくる。 即ち或る停車場で何等かの原因で遅延が起こった時には思わぬ混乱を全体に与える事が了解できる。 之等の混乱が起こった場合には何とか速やかに遅延を恢復する方法を取らねば混乱が次々と大きく発達して収拾困難なる状態となる事がある。 此の様な場合短区間の運転のみを行っている電車運転区間の如きは別段大きな問題となる怖れはないが、長距離区間の運転には其の影響範囲は極めて大きくなる。 通常之等の影響を極力少なくする方法として二つの方法がある。一つは積極的に遅延を恢復させしめるように機関士に命令する事と今一つは少し位の遅延では大きな混乱が起きない様に列車密度を最初から極端に大きくして置かない方法とが取られる。 消極的な方法を取る事は線路の発揮し得る最大能力を押さえた結果になるのであって戦時下としては是が非でも余裕を切りつめ、機関士が安心して積極的に列車の遅延を恢復する手段が講ぜられる設備でなければならぬ。 即ち列車運転の保安度を100として最大線路容量を発揮せしめる必要がある。 その目的に於いては自動列車制御装置は戦時下の鐵道輸送力に絶対不可避な要素として現れるものである。

3.作用方法    <1.3>

 自動列車制御装置として如何なる種類があるかと云うと古くから次の様な方式が考えられてゐる。 根本は如何にして地上より走行中の列車に或る力を伝えるかであって此の力を伝える方法に機械的方法と電気的方法とがある。
(イ)機械的方法
 本方式は車上に常に車両限界を冒せる腕を設け地上には信号設備と関連を有し必要時に自動的に動作を起こし建築限界を冒すが如き突起物を装置する。即ち直接機械的に打付けて力を伝える方法である。 此の方式は現在打子式と称し地下鉄道等で実用されているが、何分にも車上装置は車両限界を地上装置は建築限界を冒さねばならぬので、夫れから生ずる諸種の不便殊に高速度になって来た場合の不安等の為に次に述べる電気的方法が考えられる様になった。

(ロ)電気的方法
 本方式は電気を使用することに依り車両建築両限界間の間隙に何等質量を有するものの介在を必要とすることなく、打子式の如き不便不安を一掃するに止まらず、後に述べる様な誠に都合の良い方法も可能となる。

 現今実用化されて居るのは電磁気を利用する方法である。 即ち地上には鉄心に線輪を巻いた誘導子を設置し又車上には誘導子と略同様の構造を有する受磁器と称するものを備え之が誘導子上を通過する場合は必要時に其の瞬間受磁器に対し磁力の変化を生ぜしめ電磁的に力を伝える方法である。これを断続誘導式と称している。

 以上述べた處は打子式にしても又断続誘導式にしても其の作用は前者は機械的後者は電気的の差はあるが作用する處は地上に設備した其の地点に於いてのみであって地上の或特定の一点に於いてのみ、車上に力を伝えると云う点に於いては全く同様である。

 之に対して連続制御式とも称すべき方法が電気を利用することに依って可能である。 此の連続制御式というのは或る区間連続して地上と車上との間に連絡を保たせる方法である。 即ち或る特殊の電流(コード電流)を一定区間の両軌条に送り込み夫れによって生ずる磁力の変化を車上の受電器で常に取入れる仕組みである。
 此の方法に依る時は地上の信号現示と車上との連絡が常時可能で此の点運転取扱上断続制御式の企圖し得ざる利点を有するものである。

4.制御方式    <1.4>

 以上作用方法の種類を述べたが地上の信号装置と車上装置との制御方式として二種類が用いられる。
(イ)停止現示の信号機を無視した場合自動制動が作用する方法。
(ロ)注意現示の信号機を通過する場合何等手動制動手配を講じなかったとき自動制動が作用して停止現示の信号機迄に停止せしめる方法。
第2圖 重複閉塞式

第3圖 車上確認式による信号と列車の関係

第4圖 速度制御式による信号と列車の関係

(イ)の方法は自動制動が作用した場合停止現示の信号機を越えて停止するのであるから其の区間に他の列車が居たのでは衝突の事故が起こる。故に之を防ぐためにはその区間に他の列車が居ないと云う保障が必要である。 圖2に示す様に地上信号方式を重複閉塞式となし停止信号を常に二個減じせしめる方法である。
(ロ)の方法は危険なる場合最後の手段として停止現示の信号迄に停めるものであるから、別に停止現示の信号機に対して余分の防御距離を設ける必要がない。故に運転頻繁なる区間には是非此の方法を採用しなければならぬ。
 此の方法は理論的にも実際的にも信号設備との連絡方法として申し分ない方法である。 然し実際問題として考慮せねばならぬ事は速度の制限を附加して停止信号迄に安全に停止出来る方法を考えねばならぬ。 普通、速度制御式と称するものである。夫れで完全な設備にする事が困難な場合云い換えると低速度に於ける速度制御を附加する機構が困難なる場合は車上確認式と称する方式が考えられている。* 此の方式は(ロ)の方法を簡易化した方法である。 第3圖は車上確認式によってゐる列車が95km/hの速度で注意信号を通過した場合の状態を示す。 注意信号を通過する時に確認扱いと称する特別の注意喚起方法を強制するのである。 一箇の開閉器があって其の開閉器を扱う事により注意信号を無事通過する事が出来る。 若し此の扱いを行わなかった時には自動制動が作用して列車を停止せしめるものである。 開閉器は一定時間以上扱った儘にして置くと又自動制動が作用するようにしたものであって15秒の余裕が附せられた状態を示してゐる。 確認扱いの後は自分で手動制動を扱わねばならぬ。 万一此の手動制動を扱わぬ事があると停止信号を過走して追突の如き事故を起こす。 此の様な欠点がある為に(ロ)の方法を何としても取らねばならぬのである。
 第4圖は速度制御式の圖であって、即ち前方信号機が停止信号を現示してゐる区間に進入すれば此の時確認扱の上手動制動手配を講じないと一定時間後自動制動が作用して停止信号機迄に停められてしまう。 然し全機の手配をなせば自動制動を避け得られる。

 此の方式の詳細なる機能は次のとおりである。
(イ)列車が注意信号区間に進入したとき何等手配を講じないと一定時間後に自動制動が作用する。
(ロ)列車が注意信号区間に進入すれば確認扱いの上手動制動を開始して一定低速度になる迄減速せねばならぬ。一旦低速度になれば其の後は其の速度を以て運転を継続せねばならぬ。
(ハ)前(ロ)項の場合一度手配した手動制動を減速の完了せぬ中に止めた時及び低速度運転中其の速度を昂上したときは一定時間後に自動制動が作用する。
(ニ)(ロ)項の場合速度逓減中及び低速度運転中と雖も前方の閉塞区間が開通すれば制動を緩解して適当な速度で進行することが出来る。
(ホ)一度自動制動が作用した後は停車の上機関車外に出て復帰扱いをなさなければ発車することができない。

 然し之等の全機能は連続式でなければ発揮する事が出来ぬものである。

5.連続コード式の原理    <1.5>

[補足図1] コード波形説明図   <Code>

商用周波数交流の断続波か
 連続式の原理は列車に対し前方の地上信号機より成る特殊の電流を軌条に通して之を列車の前頭に取付けた受電器と称する恰もラヂオのアンテナに似た線輪により取入れ、之を増幅器に依って拡大したる上(夫れに応じて車上の総ての動作を司る継電器と称するものを選別動作せしめるのである。
 此の方式の内最近最も発達してゐるものはコード式と称するものである。 此のコードと称するものは或る符号の電流で恰も電信の符号の如きもので普通使用してゐる交流の電流を或る時間流したら次に其れと同じ時間丈切り又一定時流すと云う所謂電流を断続したもので其の種類は180とか120又は80とかで云い現してゐるが此の数次は毎分の断続数を示すのである。 例えば180コードとは毎分180回即ち毎秒3回断続された電流を指してゐる。(右補足図1参照→)
 第5図は地上に於いてコード電流を送出する機構及び車上に於て受電器より主継電器MRを地上のコード区別に従って断続せしめ更に復調器によりコードに応じた極めて狭い交流を再生し80R 120R又は180Rを選別動作せしめる機構の系統図を示したものである。 本圖に於いて1Tたる軌道部分に列車が存在しない時には1TR軌道継電器は軌道変圧器よりの送電電流により右又は左の動作接点を構成してゐる。 列車(●:1Tに進入すると1TRは無●●(=励磁?)となって落下接点を構成する。

第5圖 連続コード式の機構系統図

赤字:復刻者補足注記。(インピーダンス・ボンドを表記省略)
[補足図2] コード「検波」動作説明図(A&B)
商用周波数搬送波からコード波抽出  <Det>


 増幅器回路部は正常動作が疑わしい。技術秘匿目的か?
 ∵真空管動作電圧のいずれも疑問を生ずる値。

 バイアス−C電圧、動作+B電圧32V、共に疑問。ヒーター+A電圧も若干の疑問を生ずる??

 s.21資料の回路では+B100V、+A12Vと固定バイアス方式が採用されている。

 意図する検波動作としては、上図s18年版が右図「B」、下図s22年版が右図「A」と推測するが、回路定数もなく正常動作範囲がどの程度得られるか、かなり微妙。

結局この車上装置は機能としては商用周波数を搬送波とする振幅変調連続コードを検波してコードを取り出しリレー接点レベルに転換させるものだが、「増幅器」部については内部詳細不明のブラックボックスとして見ることが適切なのではないだろうか。
      (復刻者補足注記

s.22第2圖(A)

s.18発表原回路再現に現物合わせ設計で無用に複雑化させてしまった疑い!s.22報告。
周波数分離感度向上に、せいぜい負荷抵抗設置か、並列共振点からの2極真空管検波方式程度の改良で済むものを、トランスも共振コイルもタップだらけにしてしまった!(当時の整流ブリッジはおそらく亜酸化銅整流器だから高電圧の整流が困難)

 本図の状態は此の場合を示し1TRの落下接点より1T軌道回路の送電端に装置された連動継電器VRを動作せしめる。 連動継電器VRの動作接点によりコード継電器120CdR 又は180CdR2TRの状態に従って夫々起動し其の断続接点によって軌道回路1Tにコード電流が送出される。
 コード電流は列車の先輪により短絡されて受電器の下を流れ受電器の線輪に電圧を誘導し増幅器に導かれる。 MRにはコード電流に相当した断続交流が流れコード数に応じて同じ断続数により其の接点を動作せしめ所要のコード数を車上に再現するのである。
 復調器は 120R に付属する共振回路は2サイクルに共振するもので 180R に付属するものは3サイクルに共振し此の二つの継電器は同時に動作する事はない。 80R は共振回路を持たないから何れのコードの場合も動作する。
 然して 80コードの時には 120R 180R は共に動作しない為に 80 コードのみにて動作する条件を得る事が出来る。
 以上がコード電流により地上の制御条件を車上に再現せしむ機構の概略である。

6.自動列車制御装置の構造    <1.6>

 以上の如き原理を用いて4項の(ロ)の如き機構を如何にして得るかと云う点になると更に種々の考察が必要である。 自動制御の起こる以前に機関士が手動制動手配を完全に講じたと云う制動表示を機械的に如何にして得るかと云う問題と列車が安全なる低速度で運転されてゐると云う速度表示を如何にして得るかと云う二つの点である。 我々は計画に当たって次の如き方法を採用する事になった。

(イ)制動表示の方法
 空気制動が貫通制動として用ひられてゐる場合普通次の如き制動装置が使用される。
 ブレーキ弁を機関士が扱うと釣合空気溜の空気を大気に放出し其の後に一定減圧量を先ず釣合空気溜に得る。 次にブレーキ管の空気を釣合空気溜の空気圧力と同じになる迄自動的に大気に放出して所要の制動度を列車に与えるのである。
第6圖 手動制動照査回路

第7圖 調速継電器回路


 我々が必要とするのは注意信号区間に入った列車が定められた制動を行ったか否かと云う表示である。 即ち釣合空気溜の圧力が一定減圧に達したる後ブレーキ弁把手が重りの位置に置かれたと云う事実が機械的に表示出来ればよいのである。 此の方法は第6圖に示す結線によって行うのである。 釣合空気溜の圧力により動作する気圧継電器を設け其の接点が一定圧力以下になれば構成される様にしたものである。 次にブレーキ弁が制動位置又は重り位置に動かされた事を電気的に表示せしめる為に一つの電気接点をブレーキ弁に附加して此の二つの条件が両立した時に一箇の継電器を動作せしめる事にしたのである。 今之を手動制動照査継電器BRとしたのである、つまりBRが動作した事は機関士が手動制動により定められた制動を示すものである。

(ロ)速度表示の方法
 現在種々の回転機(?)には色々の方法による調速機が用いられてゐるが何れも回転機を一定回転数に保つ為に用ひられるもので本装置の様な用途に用いられてゐるものは稀である。 最も簡単な方法は車輪の軸により回転し遠心力によって開閉する調速機を使用する事であるが、非常に回転数が高い時に機械的に安全であり且つ低速度に於いて極めて正確に且つ安定に働く遠心力調速機を設計するは非常に困難な事とされてゐる。 従って此の様な方式は一先づ採用しない事にしたのである。
 次に電気的に速度表示を得る事にして先づ誘導型の交流発電機を車軸に取付け回転せしめ、然して其の速度発生する交流周波数とが比例する事を利用して調速機を設計する事にしたのである。 或る周波数以上の周波数の交流では継電器が動作し其の周波数以下では完全に落下する事を利用するものである。 第7圖は其の結線の略図を示したもので今日の電気通信技術に於いて盛に使用される濾波器を使用する方法である。 濾波器の設計を適当にするとその限界周波数に於いて急激に大なる電流を継電器SKRに流し得る。 その周波数より高い場合は交流発電機の電圧上昇と相まってSKRの動作は完全に保持されるのである。 又逆に限界周波数以下に於いては電流は急激に減少し発電機の電圧の小なる事との関係から継電器は落下するのである。 即ち一定回転数に於いて継電器の動作を極めて鋭敏に選別する事が可能である。
第8圖 コード使用方法

第9圖 


 以上の二つの基礎的要素の実験的に可能であるために次の様な装置により速度制御式の機構を得る事にしたのである。 次の結線図は其の全部を示したものであって、本装置を理解する為に先ず地上の信号装置との関係を第8圖に示した。地上の信号機の現示と其の軌道回路に送出されるコード電流の種別を書いたものである。 列車が緑色現示Gの区間を走る時には 180コードを使用し橙色Yの時には 120コードを使用した。赤色現示Rの所は0としたのである。

 但し停車場構内の場合に限って場内信号機橙色Yの時には0コードを用ひて特殊の取扱ひを為さしめる事としたのである。 その主たる理由は場内信号機と出発信号機との間の距離は停車場の配線により非常に長短であり且つその制動の方法も決して単一なる操作でない為に先に説明せる車上確認式に依る事にした為である。 即ち本設計によると駅間に於いては速度制御式、停車場に於いては車上確認式に依ったものである。 但し通過列車に対して出発信号機がY又はGを現示する時は通常の速度制御式に依るものである。

  <1.6.B>

 今之等のコード電流によって車上のコード反応継電器との間に如何なる連動が行われるかを車上装置の系続結線圖により概説することにする。
(イ) 180コードで軌道回路に送出されてゐる場合、列車前頭の信号機が進行又は注意現示なる時は第8圖に示す如く軌道回路に 180コード電流が送出される。 之に従って車上の 180R継電器は励磁され次の第9圖に示す回路が出来る。
  (+)― 180RAR入換―減圧溜気圧継電器定位接点―制動電磁弁BM―(−)
180R
は継電器の動作接点を表すARは継電器の落下接点を表す}
 BM が励磁されてゐる場合は装置は何等動作を起こさない。 即ち自動制動は働かないのである。 然し入換用開閉器を入換接点は切れてBMは無励磁となる。BMが無励磁となると5秒間警笛が鳴り且其の後に自動制動作用が起こる。 之は第10圖に示す様な空気弁機構によるのである。 而して自動制動が作用すると減圧溜に空気が流入し其の減圧溜に附加されて来た気圧継電器が動作しBMの回路は遮断されたまま保持される事になる。 其の後は 180Rが動作した本第9圖の如き回路が出来てもBMは再励磁される事はない。
第10圖 空気制動関係

第11圖 

即ち自動制動が作用すれば列車は必ず停止することになるのである。  又 180Rが励磁されてゐる時には車内信号灯は進行を現示し列車が無条件に進行し得る事を示している。

(ロ) 120コードで軌道回路に送出されてゐる場合
列車が注意信号を通過すると軌道回路には 120コード電流が送られて来る。 車上に於いては 180R継電器は落下し 120Rが扛上する。 旋つて第11圖に示す回路が出来る。 又車内信号は 120Rの動作接点に依り注意を現示する。

 即ちBMが無励磁となる為に警報が鳴る。其の時に機関士は確認開閉器を扱うのである。 120Rが動作してゐるから確認継電器ARが動作し保留される。制動を扱ってBMを動作せしめると次の回路によりBMは再励磁される。
  (+)― 180R―BR―AR―確認開閉器定位―入換―減圧溜気圧継電器定位接点―BM―(−)
 従って列車には手動制動による一定制動が作用し其の後其の状態は保持される。 万一手動制動を扱う事を忘れBRが動作しなかった時は5秒の後に10圖に示す作用弁の動作により自動制動で作用し減圧溜気圧継電器も動作する為に其の後BRを動作せしめる事があっても自動制動は緩解する事が出来ない。 此の場合は列車が停止したる後復帰開閉器を扱ってARを動作せしめ、とか接点と速度表示継電器SKRの動作接点に依りBMを再○○せねばならぬ、復帰開閉器は特別に封印されたもので之を扱った事は其の後判明する様にされてゐるので、機関士の過誤を監査する手段にされる訳である。

 正常なる扱ひによって自動制動を回避する事が出来たとすると機関士はARの接点と 30km/時 以下になった後に落下するSKR(30)の接点に依りBRの接点を除く事が出来る為に制動を緩解して 30km/時 以下の速度で進行する事が出来る、即ちかかる状態で前方の停止信号に接近するわけである。 万一其の後速度を上昇せしめる事があればSKR(30) が動作する為に又制動を作用せしめてBRを動作せしめねばならぬのである。 又前方の信号機が停止より注意に変化した場合は 180Rが動作する事になり 180コード区間と同様になるのでSKR(30)とは無関係になり速度制限は解除される訳である。 従って其のままの状態で手動制動を緩解して進行しうる訳である。
第12圖 

第13圖 

第14圖 


(ハ)120コード区間よりコード区間に進入した場合、 120コード区間により 30km/時 以下で接近した列車が停止信号機にて一度停止し其の後運転規定に依る 15km/時 以下で進入した場合には既にBM回路は(ロ)項の説明通り○○されてゐるが第12圖に示すが如き回路により危険を防止するものである。 万一 20km/時 以上の速度になったとすると 120Rの落下と同時に E BMR の回路が出来る。 然し本回路に SKR(30)が入っているので 20km/時 以下では E BMR は動作しない。 本継電器は2(?)秒の後に動作するものであって E BMR が動作すると其の接点によってEBM非常制動電磁弁が動作し列車に非常制動を作用せしめるものである。 EBMRが動作した後は復帰開閉器を扱ってEBMRを無励磁として非常制動を緩解せしめねばならぬ。

(ニ)180コード区間より0コード区間に進入した場合、場内信号機が注意現示の場合には構内の軌道回路にはコード電流は流れてこない。 前記の如く停車場の制御方式として車上確認式に変更されるのであるから場内信号機通過と同時に確認扱いを行うと自動制動機構は切り離されてしまふ。此の場合の電気結線圖は次の様になる。
第13圖に示すが如く 180R継電器が落下する事 80R継電器が落下する事によりA'Rの回路が出来る。
  (+)― 180R減圧溜定位接点80R入換―確認開閉器反位接点―R―A'R―(−)
 従ってA'Rは其の自己接点により保持される。 120コード区間よりコード区間に進入した場合は継電器が落下したのであるが 180Rコードよりコード区間に進入した場合にはR継電器は落下せずその自己接点により保持しうるのである。 A'Rが保持されると次の如き回路によりBMを再励磁(?)する。
  (+)―A'R―確認定位接点―入換―減圧溜定位接点―BM―(−)
 従って自動制動機構に保持され且つ 20km/時 以上の速度に於いてもEBMの回路はA'Rの動作接点により遮断せられ非常制動は起こらない。 若し確認扱いを行わなかった時はA'Rは動作せずBMの無励磁になる事により自動制動と非常制動○もEBMの回路が同時に出来て非常制動により列車は停止する事になる。

(ホ)非設備区間を列車が走行する場合
 コード切換装置を用した被制御区間を走行してゐた列車が通常の線路に出て行った場合に特に装置を切り離す操作を機関士に於いて取り扱う事は色々の意味で間違ひを起こし易い。 従って自動的に車上装置を保留せしめて進行する必要がある。 又逆に装置が保留されてゐた列車が被制御区間に進入した場合は逆に自動的に制御状態に帰る必要がある。此の目的の為にかかる区間の出口に80コードを送出する軌道回路を設けて自動的に保留することにしたのである。 第14圖は此の状態を示したものであって、車上の回路は第13圖に示す如きものである。 80Rが動作すると 80PRが動作してBMが保持される。 又 180コード又は 120コードが来れば 80PRは落下して通常の制御状態に帰るのである。

 此の様な方法は地上装置が故障の時にも使用されるので或る停車場から次の停車場に行く間の地上の電源が皆無になった時には其の停車場を発車する時に通信閉塞用開閉器を扱って 80PRを人為的に保留せしめる事にしたのである。 此の開閉器は通常使用されれば制御状態に於ても装置全体を無効にするので特殊な鍵を用ひて此の開閉器を扱ひ列車運転中は之を扱う事が出来ぬ様にしたものである。

結  言    <1.7>

 以上現在設計中の本装置の大要を説明したものである。 実際問題になると更に不都合な点が発見されると思われる。 然し本装置の如きものは最善の方法を取らぬ以上常に欠点を残し装置の重大使命から遠ざかって行く傾向がある。 又理想を実現せんとする強い意欲が無ければ一つの基礎をも築く事が出来ぬものと云う信念を持って材料の点真空管の寿命の問題等に未だ検討を加うべき事柄を持ちながら実施せんとする固い決意を持ってゐるのである。

 本装置の案は鉄道省資材局動力車課業務局保安課の各関係官の並々ならぬ助言と我々施設局通信課員の努力に負うべき点が多い。 又信号製作会社京三製作所の各専門技術者の技術的援助も大きなものがある。
 計画途中であるが現今の社会情勢に鑑み其の実現段階の一部を発表し多方の批判を仰ぎ度く敢えて一文を寄稿せる所以である。
   (終筆者野村正俊氏は最近関西連合支部に於いて、戸田芳郎氏は門司連合支部の講演会に於いて自動列車停止装置に就いて御講演されたのである)(終り)

昭和 18 年 7 月「信号」16 巻 4 号 p178〜185 記事全文 2014/04/30復刻

昭和 21 年 11 月「信号保安」1 巻 1 号 p18〜22 記事全文(1/2)  2014/05/12復刻

自動列車制御装置に就て  信号保安」1巻1号p18〜22 発行s.21.11  <2>

          鈴 木 嶺 夫 (運輸省電気局通信課技官)

緒  言    

 鉄道に於ける信号保安設備は列車運転に対し直接その輸送能力を左右するものであるが故に、之を最も効果的に施設するの必要は謂う迄もないことである。 而して現在迄の設備は列車乗務員が信号の現示に忠実に従った時にのみ、その保安も確保されるものであるから、信号を意識的又は無意識的に無視した場合危害を生ずるのは当然の事である。 従って之を防止すべく危害を生ずる惧れある時に自動的に制動を掛けようという考が出るのは当然である。 これは消極的な方法と謂えるが寧ろこの装置を使って列車の輸送力を極限迄持って来得る積極的な施設と考ふべきである。

列車事故の状況    <2.1>

 自動列車制御装置を使えば如何に重大事故が防止され得るかと云う事は○表に依って示された所であるが、今昭和 20 年 8 月 15 日の終戦の前後一年間の列車の追衝突の原因別件数は次の如くである。
原因\線区東 海山 陽鹿児島電車
 区間
東 北常 磐その他 合 計
1.仮  眠 1140200(2)17
(2)
2.信号誤認 411201211
3.速度節制を誤る 122120210
4.信号冒進、不確認 56243
(1)
32
(7)
24
(8)
5.信号確認不能 1100101
(1)
4
(1)
6.信号取扱不良 00(2)(1)(2)0(17)(22)
7.制動機不良 01020003
8.車両接触限界留置 00(1)000(4)(5)
合  計 22155
(3)
11
(1)
6
(3)
47
(31)
70
(38)
     ( )は非自動化区間に於けるもので別掲である。


 右上表中取扱不良とあるは信号機復位失念又は進路不確認に基づく信号機降下で何れも非自動区間のものである。 終戦前後の影響は大差なく只取扱不良による 22 件中 6 件が終戦前のものであり、16 件が後のものである事は復員の未熟練者によるものか士気弛緩か何れかであらう。
 右上表中 1〜5 号は全体の約 72%で之は自動列車制御装置により防止し得るものである。 第3項の一旦停止後速度の節制を誤ったものは連続制御式なら完全に防げるし、自動列車停止装置でも車内信号機を併用すれば前途の支障が車内に反映される丈けその大部分は防止し得るものである。 第6項及第8項は全体の 25%を占めるが、之は自動信号化により防ぎ得るものである。  表から見ると自動区間で追突衝突が多い事は夫れ丈輸送量の大きな事を示すわけである。 又事故件数では東海、山陽、電車区間の順になっている。

 表中第 1〜5 項中の事故による車両破損は機関車 36、客車 50、貨車 170 両で今機関車 C59 が約 205 万円、客車が約 59 万円、有蓋車約 11 万円と見れば総額一億四千二百万円、年間 7200 万円の損害となる。 勿論全部使用不能とはなるまいがその破損率は当然大きい。
 又列車事故と称する運転事故中でも重要な衝突、接触、トロリー衝撃、脱線の4件に就いて見るに、その件数は百万Km当り昭和18年より著増し 18 年 0.96、19 年 2.26、20 年度 3.1 と芳しからぬ躍進振りである。 又その線区別に見ると 20 年度では山陽 77、東海 57、鹿児島 42、函館 42、東北 37 件となってゐて山陽線は相変わらず多い。

我が国の本装置発達経過    <2.2>

 緒我国に於ける最初のものは汽車会社が宣伝用として米国ナショナル会社のマグネット型のものを輸入して、大正 10 年 7 月東海道線汐留品川間、同 14 年 2 月尼崎線塚口○崎間及同 15 年 3 月横浜線菊名小机間に於て試験したのが嚆矢である。 試験成績は良好であったが設備費が高かったし、当局もやる目算ではなかったのでその儘となった、 其の後東京地下鉄道が昭和 2 年 12 月開通に際し、GRS製の打子式電動機型自動列車停止装置を使用した。
 省に於いても昭和 3 年末にGRS会社へ打子式のものを注文し、昭和 5 年 3 月菊名小机間で試験した。 この時は大井工機部製のトリップブロック式(車上装置)のものを使った。 何れも直接吐出弁を作用させるもので面白くなく、其の後中継弁を置いて昭和 7 年 10 月同区間で再試験した。 大体成績が良かったので 8 年 1 月有楽町駅の上下場内及その後方一基に計 4 基取り付けて試験した。 信号制御は部分重複式とした。 この試験での問題は地上車上両装置の重なり寸法で大体 10〜20 粍としたのだが、実際には車輪が軌条の何れ側に寄るか又軌条の沈下と枕木に取り付けた地上装置の沈下と異なったりして、結局重なりの範囲が著しく広い幅となった。 従って当時之を信号機の内方に取付けて徐行すれば夫れ迄に地上の腕が降下して無事通過出来る様にしたのだが、計算によれば翼(?)型軌道継電器を使った場合この電動機型の地上装置を信号機の内方 3 メートルに置けば、重なり 10〜20 粍に於て徐行速度約 17〜20 km/時 と出るのだが、実際は上述の如く重なりの変化の為徐行速度は約 15 km/時程の幅を持ち、之では運転士が一体何kmで徐行してよいか分からぬので実用上困ると云う事になった。 其の他地上の腕に石が挟まったり、車上装置の打子が踏切道其の他思はぬ所で衝撃されたりしたので、その儘実用化されずに終わった。
 一方大阪地下鉄道は昭和 8 年 5 月京三製の電空型打子式のものを部分重複閉塞区間に使用した。 以上は何れも自動列車停止装置であり、其の後本問題に対して積極的動きもなく数年を経過した。

運輸省に於ける採用方式    <2.3>

 我国最初の海底隧道たる関門連絡線の工事が施工されるに際し、この隧道内の信号保安設備を如何にするかと云う事が問題になった。 そして当時下関門司間の運転時隔を3分とし、この区間の特異性を考慮し同区間に自動列車停止装置を設備し、信号機制御は重複式となす事に決定した。 但し停止装置の形式は連続コード式とするか打子式とするかは試験結果に俟つ事とした。 斯くて昭和 15 年 7 月 沼津及平塚附近で両形式の比較試験をしたが決定を見るに至らなかった。
 其の後 16 年秋 山陽本線網干駅で追突による未曾有の大惨事を起こした為、省内に事故防止に関する論議が旺となり関係局間に自動列車停止装置の急速施設に関し種々論議を重ねたが、新たに提案された断続誘導式、車内信号装置等を○って議論尽きず約1年間討論された。
 而して車内信号丈けでは事故の完全防止と迄いかぬし、打子式は車両接触限界を侵す為其の他外的条件に支配される事が多いので、終には断続誘導式と連続コード式との比較と謂う事になった。 斯くて昭和 17 年 12 月 30 日関係者打合せの結果、東海道山陽鹿児島各本線に連続コード式を採用する事に決まり、尚東京大阪附近電車区間にも同方式を採用する事になった。
 東京鳥栖間に本装置を施設する場合の費用及資材比較は(全重複制御にて)次の(右表の)如くであった。
種別\経費・資財指数経 費普通鋼特殊鋼電気銅
連続コード式100100100100
断続誘導式8358175229
打 子 式737117497
 之から見ると断続誘導式は費用が余り廉くない代わりに、特殊鋼や銅が沢山入用な事が分かる。 だから連続コード式では制御が連続的で危害のあった時には何時でも制動が掛かるし、風雨吹雪霧の時でも車内信号の併用で前途が確認出来るし、速度制御が行えるなどの利点がある上前記の予算資材の表を勘案すれば、この方式が良いと云う事が分かるであらう。
 この方式が決まった時に汽車区間並に汽車電車併用区間は中間信号機は存置しておくが、電車区間では大体2分間隔運転をすると見ると信号機の設置は 1 分 40 秒位に施設する必要がある。 而してこの場合停車時分が大きく響いてくるから当然クロージング・イン方式を導入する事となる。 すると信号機間隔は場内付近では 100米位になるので、信号制御は勿論重複制御とするが信号機の林立によって運転士の労苦を増す。 殊に夜間は信号機の順序が不明で事故の原因となるので車内信号で救済する事とした。 即ち中間信号機は廃止して但し場内信号機丈けは地上信号機を置かうと云う考え方であった。

  <2.3.2>

 偖閑話休題、超えて 18 年1月陸運本部会で前記打合通りの施設方式と施設区間が正式に決定され、同年 2 月 15 日の次官通牒で「運転事故特に追突事故防止に関する件」中に之が明示された。 斯くて省の方針が決定したので本省通信課では一速度制御式の具体案を作成したが、打合せの結果業務局の一速度制御式案を取入れて決定案を作った。この決定した方式は次の如くである。

第1圖 

 以上を満足させる結線図は第1圖の如くである。

 斯くて新方式による第一回製品につき 18 年 12 月沼津及平塚附近で試験を行ひ、不備な点を調整又は変更した第二回製品に就き 19 年 3 月下旬山陽線長門一宮、埴生間で試験を行った。 この結果新製品は戦時下の悪条件にも関わらず次々誕生し、地上装置は 19 年 11 月末小郡下関間が完成し、20 年 5 月には関門間の全部及広島小郡間の 90% が出来上がった。 一方車上装置の納入も数十台を超えるに至ったが、不幸 20 年春の空襲で倉庫に納入されてゐた大部分を焼失し、製作工場又焼失してこの工事は遂に一頓挫を来すに至った事は返す返すも残念な事であった。(以下次号)
(筆者は運輸省電気局通信課技官)

昭和21年11月「信号保安」1巻1号 p18〜22記事全文(1/2) 2014/05/12復刻
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昭和22年1月「信号保安」2巻1号 p60〜63記事全文(2/2) 2014/05/17復刻

自動列車制御装置に就て(続)  信号保安」2巻1号p60〜63 発行s.22.1  <3>

最近決定せる方式    <2.4>

 茫然自失終戦を迎えた我々は、之ではならじ日本の復興は吾人の手によりとさらでだに増加する運転事故を減少せしむべく本装置の再興に努力をした。 上述の方式は運転士の過失を微に入り細に穿ってカバーする方法である丈けに、装置は第1圖に見る如く複雑であるし扱い方も仲々面倒なので観点を新たにして関係者打合せの結果、或る程度乗務員の注意力及技量に俟つ事として其の機構の簡易化を計った。 即ち之を略言すれば車内信号現示の変わる度毎に警音を発し確認扱いで之を鳴止める。 停止信号を侵すと警音と共に非常制動が作用するが、確認扱いをして進入すれば自動制動は掛からないのである。
 その方式は
第2圖(A) コード反応継電器の動作圖

(注:s.18発表原回路再現に現物合わせ設計で無用に複雑化させてしまった疑い!s.22報告)

   <2.4.2>

 以上の改良案が従来のものに比べて異なる点は次の如くである。
第2圖(B) 列車制御装置配線圖


   <2.4.3>

   第2圖(B)はその改良案であって第1圖に比して相当簡単な事が分かるであらう。 即ち継電器数は電磁弁を含めて 13 ケが 7 ケに、開閉器又は梃子 5 本が 3 本に、気圧継電器2ケが1ケに、配線接点 67 ケが 26 ケに減じている。
 之の動作説明は次の如くである。 猶結線図を辿る場合継電器を動作接点と落下接点を区別するため、例へば 1 ACR1 ACR の動作接点、 1 ACR は同落下接点を示すが如くした。

   <2.4.4>

   <3.>

 前記の運転又は作業が終わった時は遮断開閉器を定位に戻す。
 猶上記の内気圧継電器の調節が問題である。 即ち非常制動が掛かって制動管が減圧されたらなるべく早く接点を構成して呉れた方が自動制動後の確認扱いを無効にする事から云って必要であるが、一方信号機の停止現示で一旦停止後徐行進入した場合、速度が上がり過ぎた為制動を掛け乍ら進む場合に、この制動管減圧でこの接点が閉じて急に非常制動が掛かる惧がある事と、割に僅かの減圧で接点構(?)成すると云う事は自動制動で停止後復帰する迄長く RS を押さねばならない事になる。 併し前者は大体制動を掛け乍ら停止信号区間に入る可きものでなく、又速度を上げ過ぎて自ら制動を掛ける可きでないから接点の構成は高い圧力の處で差支えないと思う。 後者は自動停止した以上この押してゐる時間は問題になるまい。 夫から構内を生かす関係上転轍機及轍叉附近の死区間で非常制動が掛からぬ様確認継電器 ACR は 0.3 秒位の緩放時素を持たせてある。

昭和22年1月「信号保安」2巻1号 p60〜63記事全文(2/2) 2014/05/17復刻
著作権上の保護は50年のため、s22.(1947年)の本記事は1997年以降復刻可。
雑誌記事のため執筆者が公務員担当技術者でも公文書でなく著作権は存在。

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