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図書館で「航空・鉄道事故全史」(災害情報センター&日外アソシエーツ編集部編07/05/25紀伊國屋書店発売\8,400.)を発見。事故調報告書や、各種専門家の著作をソースに、公式見解と違っても主張の根拠のしっかりした見解はきちんと併記しています。こういう資料は有難い。例えば羽田沖全日空機墜落事故'66/2/4の原因につき、公式見解の乗務員のエラーではなく、安全性から交換要求されていたグランドスポイラーの操作機構の疲労折損による失速・異常燃焼爆発翼端失速横転説とか、餘部鉄橋強風転落事故'86/12/25が、橋の補強改修不適切によるフラッター発生主因とする元技官の著書の記述(続事故の鉄道史、網谷りょういち著)まできちんと紹介しています。
総論部に14ページ、代表的事故53件を選んでの解説に159ページ、主な事故2298件の略解に263ページ、原因態様別1行索引に45ページ、計504ページ\8,000.+税という分量で、記載もバランスが取れて、蔵書として丁度良い処です。(概ね飲み過ぎ1回分の値段は許容範囲でしょうか?記事をどれだけ読み取れるかという要素も絡みますが「電気鉄道ハンドブック」は\31,500.ですからね)
読んでいて若干気になったのが冒頭総論部で述べている事実関係に微妙な誤りやズレがあること。本文は正しいので支障はないのかも知れませんが、こういう乱れは論旨を疑われてしまうので注意して欲しかった点です。
●例えば特急日本海北陸トンネル火災事故'69/12/6で「モーターから発火」(p14L18)では無いでしょう。この事故概説p299#1086では正しく「電源車から火災発生」となっています。この項は更に1行付け加えて「運転士がトンネルを脱出してから消火活動をしたことを国鉄は運転規則違反として処分して無条件停止強要した」ことを述べ、3年後の急行きたぐに北陸トンネル火災惨事'72/11/06の記述ではその「無条件停止強要でトンネル内に停車して消火作業したことで酸欠・毒ガスに見舞われて、死亡30名、負傷714名の大惨事となった」と触れていれば重要な関連性で適切でした。
●またATS-SN開発のきっかけとして中央線東中野事故'88/12/05のみを挙げ、飯田線北殿駅正面衝突事故'89/04/13(#1753)に触れないのは若干抵抗があります。資料によっては北殿事故こそATS-S改良の-SN開発決定のきっかけになった事故としていますから、全く触れないのはどうかと思うのです。
JR東日本は衝突事故対策としてATS-P換装を公約し運輸省の指導もあって関西を含むATS-B区間全線など稠密区間の換装工事計画を前倒しして範囲を拡大しましたが、全国のATS-S区間をいきなり全部ATS-P化できるはずもなく、-Sの暫定改良は必然だった訳ですが、北殿事故でそれが表面化してJR東海とJR東日本が開発を担当し全国展開したはずです。実際の-SN化改良運用開始の時期をみますとJR東日本'89/11、JR東海は独自の速度照査部を付加して'90/12ですから、開発後の車上装置、地上装置の量産・設置期間を考えれば、その開発は同書記載通り北殿事故より前からスタートしていたのは確かでしょう。
個人で持つかどうかは別としても、図書館には常備すべき本であることは間違いないでしょう。
鉄道ピクトリアル誌10/01臨時増刊号小田急電鉄特集の表紙裏に「インバータ制御電車概論」(電気車研究会03/1/8刊\3,300.)の広告があり、本屋を何軒か廻ったものの見つからず取次店の在庫も無いと云うのですが、「開発に積極的に携わってきた新京成電鉄と三菱電機のエンジニヤによる解説書」とあったので、近所の本屋に発注。納期が2週間から5週間と強調されて、取り寄せは手数が掛かり面倒だから請けたくない様な雰囲気を感じました。
Amazon経由だと送料・振込手数料を払えば数日〜1週間余ですが、新本\3,300.古本\6,000.という謎の値付けで、紹介画像もなく求めたい本かどうか不安もあったので本屋ルートにしましたが、土曜日発注で取次店事務所の開く月曜から実質4日の金曜に届き、ほぼAmazon並でした。
しかし、一言で言って面白い!(まぁ、一定の電気電子・機械関係の専門知識は必要ですが)。著者二人は新京成8800型の開発に携わり、純電気式ブレーキのパイオニアで、ベクトル制御や速度センサーレス制御など最新の技術の推進役で、それらの開発に直接携わった人の著書は、ナマの問題点と解決策が述べられて、ややこしい解析式ばかりが目立ち、具体論の少ない学者型より面白くなる訳です。ベクトル制御などの各種支配的伝説の間違いも明確になり、興味深い処です。この誘導電動機VVVFインバータ制御の知識を前提に、同期電動機、永久磁石式同期電動機PMSMの動作へ理解を拡げられるでしょう。
この本は、持っていて損はないでしょう。まるきりダメでも飲み屋1回分の支出。読んで面白い部分は必ずありますから 手元に置いて読み込んでみるのはお勧めです。
RP誌'10/01臨時増刊、小田急特集号\2,100.は、D-ATS-Pの解説を読みたくて入手したものですが、千葉では全く見かけず、町田、狛江、新宿など小田急沿線でしか見つかりませんでした。
JR共通のATS-Pが停止点基準の衝突防止必要充分制御なのに対し、D-ATS-Pは、車上データベース方式を避けて地上コマンド方式を貫いた点ではATS-Pに共通ですが、次信号までの距離と、その次の閉塞区間長を送ることで、中間現示に対応する速度制限パターンを生成していることが違います。これでは裏で「一段制動運転」をして時間を稼ぐような違反は出来なくなり無理な回復運転は抑制できますが、設計側の狙いは何だったのでしょう?大変興味ある処ですが、残念ながらそこは説明していません。
冒進の無い車上演算パターン式として十分な機能を持つ方式として、今後永らく使われるでしょうが、同様の路線ながらATCを採用した京王線や、JRのATS-Pとの比較で云えばどうなるのか、採用当事者の見解は聞きたいところです。JRが停止点基準になるのは単線の進行−停止だけの2位式信号に適用する方式として採用経過が理解できますが、小田急・京王はどう考えて中間現示制限をも取り入れたのか?と。
この臨時増刊号\2,100.に較べて「インバータ制御電車概論」\3,300.は、そこそこの技術的素養があって読めればリーゾナブルな値段でしょう。
近年の本屋は回転の良い商品しか扱わない傾向が強まり、本らしい本が減っていて、それが更に小書店の衰退を促進している様に思えます。売れるだけの本は24時間営業のコンビニに取られてしまい、本屋には追えません。
また、実作業を考えたときに、パソコン系の本が異様に多く、それを使って行われる実務関連・理工系の本が非常に少なくなっています。電子、通信、電機、電力、機械など見る影もありません。PCの知識では物は作れないというのに、あまりにバランスが崩れています。
新宿の店は鉄道の棚の1/4くらいがDVDに代わりその分大量に本が減ってしまいました。これも利幅の多い商品へのシフトでしょうが、鉄道関係書なら大抵揃うという重要なステータスを捨ててしまい、その店まで足を伸ばす理由を大きく喪いました。
面白い記事を見つけるとたま〜に読む「前衛」がなかなか売ってなくて、千葉旧市街や稲毛駅ガード下、新宿、神田まで出掛けないと現物を見られません。却って「経済」の方がよく見かけます。
かっては社会党王国で革新的風土といわれる調布の道筋では週間金曜日を置いている店が見つからなくなり、保守王国千葉で買っていますが、暫く買わないとみるみる入荷が減って無くなってしまいます。編集委員一新以降内容が浅くなったような印象があり、時々中核臭が酷くなって読むのがイヤになって、定期購読には至らないのですが、左系と云われる革新系のメディアがもう無いんです。武力侵略肯定で売らんかなの右雑誌はまだうじゃうじゃあるというのに。
また、本屋に高校の参考書を置かない店が増えてきましたが、これも「売れる本」とは違うから?小学中学の参考書は置いてるんですが、高校生になると勉強しなくなるんでしょうかね?高校までは国民の基礎知識・一般常識という位置付けだった筈ですが、もう投げられてしまったのかも知れません。私自身学校では選択しなかった生物や、地学に、忘却の彼方の文系教科はまるきりダメですから社会人では関係ないのかもしれません。
無くなってしまうと困るもんで、取扱中止になりそうな境界域の本はなるべく近くの本屋で2冊に1冊くらいは買っているのですが、衰退傾向は止まりません。月刊誌もノンフィクション系などかなり休刊になってしまいました。
本は今、大変なピンチなんでしょう。
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