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国鉄JR当事者調査時代の残渣・残滓
鉄道事故調漏洩事件の背景は

 鉄道事故調査委員会の権威と信用性を大きく傷つける、事故調査報告書の事前漏洩と、社長による修正工作が国交相会見で明らかにされた。「JR西日本山崎社長を取り調べた検察から国交省への通知」となると、'00/03営団地下鉄中目黒事故で、構造物である脱線現場線路を取り外して押収してしまい再現実験を不可能にして証拠価値を喪わせた警察側の大失態により、調査主体を航空鉄道事故調査委員会に取られてしまい、尼崎事故では、その事故調に対して「事故鑑定依頼」をしてその結論を待つ形になってしまった警察・検察側の乾坤一擲の巻き返しの試みにも見える。超秘密主義の検察が、役所同士とはいえ他に情報を「通知する」など極めて珍しいことである。その思惑に留意した慎重な対応が特に必要だ。これまでの警察、検察の鉄道事故処理には幕引き儀式のための人身御供型の乱暴なものも少なくなく、たとえば北陸トンネル火災惨事にたまたま遭遇した乗務員らの起訴など、前例事故の警告を無視して不当処分でトンネル内停車を命じた者を責任追及するのでなく安易に現場を生け贄にしたものだから再発防止には全く役立たなかった。

 だがこの情報漏洩、修正依頼事件は、事故原因・誘因についての公正な判断を行う第三者機関としても、また事故当事者としても絶対にやってはならない愚挙であることは各報道での指弾の通りであり、漏洩禁止規定やその処罰規定の有無に拘わらず専門ではない人達ほど烈しい不信感を抱くのは当然のことである。その報道量がかなりの大事故並になるのは無理からぬ処だ。
 再発防止を主眼とする鉄道事故の原因調査が、基本的には鉄道の専門家ではなく刑事処罰最優先の警察・検察に戻されることは決して妥当なことではないから、傷つけられた事故調報告の信頼性回復、真相究明に改めて別の専門家を交えた報告書内容の洗い直しが検討されるだろう。この時に一部から不満の出ていた当該運転士急病等の可能性についても言及、補足解説してはどうだろう。事実摘示部を読む限りは県警からの解剖所見も引用しており「一般的可能性」は言えても、結論を変えるような情報は無いようだが、一般国民向けである報告書に、世間に拡がった各種疑問への解説はあった方が良いだろう。現に、事故報告書は目立った異論について報告書本文内で結構丁寧に触れているから、その補足である。

国鉄当事者調査の事故は第3者で洗い直せ!
   監督庁のミスは消される現行事故調体制

 しかしながら、かっての鉄道事故調査では国鉄JRに拠る当事者調査だったから、調査担当と会社幹部との「意見交換」は全く問題にもならず、都合の悪い結論は出にくいようになっていた。そのためか時には公表事故原因と、実際の事故防止対策の乖離が見られるのだ。公式発表では「原因不明」に限りなく近い「競合脱線」で片付けられている1963(s38.)/11の鶴見事故や、「信号見落とし」判決で刑事裁判としては決着させた1956(s31.)/参宮線六軒事故、1969(s44.)/12北陸トンネル内での特急日本海火災時にトンネルを脱出してから消火して物損事故に留めた殊勲の乗務員たちに即時停車を強制して処分したことで、その3年後1972(s479/11に起きた急行きたぐに火災事故では北陸トンネル内に停車して、死者30、重軽傷714の大惨事にして、その刑事責任を乗務員に求めたことなどについても、結論を覆しかねない指摘が幾つもあり、それぞれ刑事事件ではとうに時効を過ぎた今、「当事者調査の結論」を安全政策の観点から第三者の目で洗い直す必要があるだろう。「事故当事者調査」というのは当時の制度であり違法性は無かったが、第三者機関員から情報を違法に引き出して、修正を策して反対に遭い不首尾に終わった今回の事態よりも実質は遙かに酷いのだ。山崎前社長らの感覚は、この事故当事者調査=国鉄時代のままと言って良い。何のため事故調を独立機関として設けたのかの認識が飛んでしまっている。この規則違反が厳しく責められているのは当然の話だが、当事者調査の時代はそうした制限がないから、発表した原因と、具体的対応が微妙に噛み合わないなどやりたい放題が疑われる状態だ。 ●See→事故再点検List

 また、土佐くろしお鉄道宿毛駅突入事故'05/03/02に見られるように、フルスピードでの駅突入を許したATS地上子設置基準は運輸省が定めたもので、設計も施工も運輸省に事前申請してその認可を受けて工事し、完成試験を受けることになっている。ATS地上子の設置位置が最高速度から過走防御できる位置に定められていれば、突入事故は回避できた可能性が少なからずあるのだが、運輸省基準では注意信号現示で進入した場合のみに対応し、最高速度突入は放置されていたことは事故報告書には全く触れていない。事故調が運輸省・国交省の下部組織では監督庁自体のミスは指摘できないのだ。政令をいじって、総て各事業者の現場責任の方向に舵を切ったが、やはり日常監督と事故調査は分けなければならないだろう。

安全対応徹底は一種の思想教育
  労使共同で立ち向かわないと陋習思い込みは変わらない

 もう一点は、山崎前社長等漏洩工作関係者の弁明から、彼等の認識、主張の分析・整理は必要だ。猟師森を見ずで、現場に慣れた専門家ほど見逃しやすいものもある。
 山崎氏が繰り返し「後出しジャンケン」というのは、当時の現場の認識が「過速度により曲線で脱線転覆することはない」というものだったのに事故の結果から速度照査を設置しなかった責任を問われていることを指している。これと併せ、ATS-Sでの強制停止がなく最高速度のまま冒進できる危険な仕様についても「旧型ATS-Swと新型ATS-Pとで安全性は変わらない('05/05/16国交委での菅直人議員質問への政府委員答弁)」というのが、根拠のない経験主義に根ざして長らくはびこってきた一般的現場認識である。
 しかしこれは、JR西日本が掲げる安全性基本計画の総論部に述べる「あり得ることは起こること」としてリスクマネジメントを行い、影響の大きいものから対応するという方針と真っ向から衝突するし、労働災害防止の基本である「オペレータ・エラー発生を前提に、致命的事態とならない手立てを講じる」方針に反している。1960年代から製造現場には徹底された労働災害防止基準に足らないことは尼崎事故前から明らかだったが、鉄道の専門家が耳を貸さないで来た安全原則であることは、安全性基本計画にその旨明記している。
 現実の事故でも1974/4鹿児島線で西鹿児島を発車したばかりの寝台型電車583系が300Rに過速度で進入して脱線しているし、函館本線大沼前後の下り急勾配の300Rでは貨物列車が姫川で2回と、問題の尼崎駅進入路付け替えの直前1995/12に仁山駅付近で発生した1回の計3回も過速度脱線転覆していて、曲線で過速度脱線しないという現場的認識とは大きく違っていた。貨物列車の脱線事故は軽視されてきたが、旅客を巻き込んで大惨事化した1963(s38)/11鶴見事故や1962(s37)/5三河島事故の例があるのに、思い込みは変わらなかったのか?

 この現場労働者の安全認識の問題は、実は大変な難物で、慣習や思い込みやノルマのプレッシャーで、実に簡単に規制を無視し、安全装置を外して生産能率向上を優先させてしまい、繰り返しの事故発生になる。この認識をねばり強い説得で改めさせる必要があるのだ。それは事実上ノルマを強要する会社が言っても直には通らず、味方である労働組合、労働者側の安全委員側から繰り返し働きかけないとなかなか有効な対策にならない。職場での組合との接触を禁じている軍隊式命令一下型の国鉄JR型労務管理では、理解と納得による基本的な安全方針の徹底が難しい。

何のための「エリート」か!

 現場叩き上げの担当者が「曲線過速度転覆は無い」とか「速度制限の約2倍が脱線速度だ。2倍までは脱線しない」などの根拠のない伝説に毒されるのはまだ仕方なく「後出しジャンケン」と抗弁する余地はあるが、理論解析力豊富なエリート技術者層がそれでは話にならない。東大工学部卒、東工大卒というのは、3流大学をマトモに勉強もせず後輩入学によるトコロテン方式で卒業してきたなんちゃって学卒とは決定的にレベルが違うだろう。まして新鋭寝台電車583系の曲線過速度脱線事故の前例があるのになぜ無視してしまったのだろうか?この解析力が「予見可能性」に係わってくる訳だ。(どのレベルの大学卒だと予見可能性があるか?と詰められると、連続分布の区分であるからはなはだ線引きが難しいのだが、少なくともトップグループ校は予見可能性有り組だ。容赦ない落第で有名だった某大学は、60%追試2%落第だなんて実は追試料稼ぎではないか?いや語学だけダメな理工系秀才が集まるとこだとか雑音レベルが高くなって結論確定は難しいのはあるが、国鉄JRのエリートは旧帝大で学んだ実力層ではないか)。

事故調報告書も一般人を混乱させない正確な記述を!

 さらに、山崎社長が修正を求めた「新型ATSであれば事故にならなかった」という主旨の文面は、事故調査報告書としては不正確な表現の部分で、これを機に正確な表現に訂正した方が良いのは、当サイト日記#165#m5 に指摘の通りである。ATSの新旧に関わらず速度制限ATSの地上子を設置することこそが確実な過速度転覆脱線事故回避策だからである。
 JR西日本での曲線過速度ATS設置の経過を辿れば、先ずは新型ATS=ATS-P区間の半径450R未満地点に過速度ATS設置規則を定め、さらにその130km/h区間には半径550Rにも設置するに当たり、旧型ATS=ATS-Swの130km/h運転区間の半径600R未満にもATS-Sw過速度防止装置を設置することにしたため、最高速度130km/h未満のATS-Sw区間の防御が抜け落ちて尼崎事故に至っている。だから、ATS-Pに換装していれば「その過速度ATS設置基準:半径450R未満に過速度防止ATS設置」に該当するため、過速度ATSが設置され、安全限界内で制動を受けて転覆事故にはならなかった。また旧型ATS=ATS-Swであっても108.5kHz地上子対2〜3対に拠る過速度防止装置を設置していれば事故にはならなかった、ということだ。事故調報告書では説明が一行足らない。また-P区間も-Sw区間も山崎氏らが過速度防止装置の設置基準を決めて施行しており「全く危険性を認識していなかった。念のための措置」というのは当たらない。それは解析決定のらち外にいた者の弁明だろう。

尼崎事故鉄道事故調情報漏洩事件新聞報道リスト:'09/09/25夕〜
DATE標題備考
09/25 日経 夕刊
18面
元委員が報告書漏洩/JR西前社長、修正改ざん依頼
見返りに飲食代肩代わり/遺族ら「怒り心頭」
山崎正夫社長、
山口浩一委員
09/26 朝日 1面 事故調委員が報告案漏洩/JR西前社長、修正依頼
39面 前社長「悪いと認識」報告書漏洩 先輩・後輩なれあい
3面 社説:事故調の情報 まさかJR西に渡すとは
東京 29面 前社長が記述削除要求/国鉄OBの委員漏らす
日経 39面 先輩・後輩の関係利用/JR西前社長 元委員へ依頼認める
「極めて軽率で不適切」「抵抗感、当時はなかった」
赤旗 1面 事故調報告漏らす/元委員 JR西前社長が改ざん要請
15面 「調査やり直せ」「裏切りだ」/遺族ら怒りの声/JR西に不信感強まる
別の委員もJRと接触/「軽率で不適切」山崎前社長
+他の国鉄OB接触
夕刊 日経 7面 ATS資料 提出せず/JR西が事故調に「無関係と判断」 函館線過速度転覆事故見解
09/27 朝日 39面 「ATSあれば防げた事故例」/JR西、事故調に出さず
毎日 27面 一部資料提出せず/JR西 類似事故後の会議
東京 1面 JR西/事故調と組織的接触か/幹部が部会長と飲食
会社の指示で10回前後
鈴木喜也東京本部副本部長
vs佐藤泰生航空・鉄道事故
調査委員会鉄道部会長
土屋隆一郎副社長が室長の
同社事故対策審議室の指示
28面 「個人的付き合い」JR西副本部長 会社ぐるみ、言葉濁す
日経 31面 副本部長も接触認める/別の事故調委員に
赤旗 15面 JR西 組織的接触/国鉄OB委員に 東京副本部長も
09/28 朝日 1面 運輸安全委/委員の構成是正検討/旧国鉄偏重脱却目指す 国鉄OB以外の委員要、人材難
39面 JR西副社長が指示/事故調接触「社の共通認識」 土屋隆一郎副社長、副本部長に
鉄道部会長接触指示
読売 38面 JR西現副社長が指示/事故調接触「報告書内容知るため」
毎日 29面 事故調漏洩「接触指示した」/JR西対策トップの副社長
東京 29面 事故調接触/現副社長指示認める/JR西組織ぐるみは否定
日経 43面 事故調に接触/JR西副社長が指示/信楽事故遺族ら、抗議検討
赤旗 1面 JR西/組織的な情報収集/事故調への接触副社長が指示
夕刊 東京 11面 JR西に報告案コピー/前社長、公表前に入手
遺族らが証拠閲覧/公判参加を判断
全文が事故対策審議室へ
日経 19面 報告書漏洩/国交省、改善報告要請へ
JR西、遺族に謝罪文/元部会長「反省している」被害者ら証拠閲覧
調査改善命令初発動
09/29 朝日 39面 国交相「背信・裏切り」/調査委接触 JR西に調査命令
読売 39面 別の報告書も漏えい/元委員JR西元幹部通じ
企業体質言及する内容
ATS資料 県警にも提出せず
JR西社長に全容調査命令 国交相
毎日 29面 JR西前社長/中間報告書素案も入手/事故調漏えい「最終」の半年前
JR西に国交相改善策報告命令
東京 29面 国交相JR西に調査・報告命令
事故調への接触、解明求め
日経 43面 報告書漏洩/JR西に改善命令/国交相「背信行為で言語道断
兵庫県警にも資料提出せず ATSで防げた事故」
赤旗 1面 コラム「潮流」
15面 事故調/元部会長も内容示唆/JR西副本部長に「○×」で
遺族らに証拠開示
夕刊 東京 9面 JR西/別の報告書案も入手/公表数日前、山口氏から 国鉄系全委員の漏洩
日経 17面 JR西/中間報告書も入手/元委員経由漏洩、事故翌年から
09/30 読売 38面 事故調元部会長も漏えい/JR脱線報告書/JR西社長が謝罪



('09/10/08 00:45 upload)    2009/09/30 23:55

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