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案内誘導、設計・設定、双方に難
東京ビッグサイトエスカレータ逆進事故
去る3日10時頃に発生した江東区有明の東京ビックサイトのエスカレータ逆走事故はさすがイヴェント会場でナマ動画がいくつも撮影されていて、それらが各マスコミに渡り報道された。事故の状況が最も分かりやすかったのは現場に居合わせたNHK外注ディレクター撮影の動画で、エスカレータ1段にそれぞれ3〜4名が乗って昇る状況が見られた。それでは過負荷で停まり、逆転するのは無理からぬところだ。
先頭に乗っていた某作家が「警備員に先導されたプレス関係が2列で乗ったから、乗りすぎはない。破損音がしたからマシンに問題がある」とTVで発言しているが、画像で見る限りエスカレータ上では1段に3〜4名乗っているから、2列はフロアでの誘導状態などと勘違いしている可能性が強い。映像ではエスカレータではギュウギュウ詰めだ。
警備員が入場を誘導して先頭にいたとしているから、それなら案内誘導時に「2列縦隊、1段2名」を指示していたら停止事故にはならないはず。エスカレータ入口に「定員表示」しても良い。ここは誘導エラーと見るべきだ。
疑問なのは保護装置が働いて停止したとして、非常停止時にはブレーキが働くはずなのに、なぜ後退したかと、リフト、エレベータとは違い1段ずつ徐々に負荷が重くなる動作だから、乗り込み停止信号を出して乗客を止められるのに、なぜいきなり強制停止なのか?エレベータでさえ重量オーバーで警告ブザーが鳴って、限界内に収まらなければ出発できないのに………。エスカレータ入口の警告信号なら駆動モータ電流値で直接制御すれば済む。
(「電気機械2」蓮見孝雄著 実教出版56/1/25初版p32図3-26より作成)
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使用モータは管理の面倒な整流子モータや高価なインバータ式(VVVF式)は使わず、恐らくメンテナンスが楽で安価な誘導電動機だろう。そうすると停動トルク(脱出トルク)以上に負荷が増えると急激にトルクが無くなり突然停まり、その最大トルク分の負荷が非常ブレーキにいきなり掛かるから、通常の設定なら非常ブレーキで抑えられる範囲で(停動トルクに達する前に)ブレーカーを働かせるはずだ。そのブレーキ力以上のトルクで引き上げたから(非常停止、あるいは停動トルクに達して)停まった場合に逆行を始めた。すなわち、ブレーキ力が脱出トルク、あるいはブレーカ動作トルクに比べて小さすぎたということだ。
インバータ方式なら停止時トルクをも最大値にできるので、極端に大きな停動トルクにはしなくて済み、ブレーキ力を大幅に上回る上昇にはならないから後退事故にはならないだろう。もしインバータ方式なのに事故を起こしていたら、ブレーキ力と駆動力のバランス設計がまるでなってないことになる。プロらしい詰めた設計・設定をして貰いたいものだ
結局は、使い方の問題として、1段2名、2列縦隊という案内がすっぽ抜けたことで発生した逆進事故。
そして設計あるいは設定の問題として、強制停止時の負荷駆動トルクをブレーキ力以下に抑えてなかった、抑えられなかった機構設計上の問題があり、そうだとするとどうも「欠陥エスカレータ」と言うべきではないか?(=ブレーキ力を最大駆動トルク以上に取ってなかった欠陥あり※注記)
[補足]=「ブレーキ力を越える人数がエスカレータに乗れる欠陥」
8/5火曜の報道でメーカー見解として「ブレーキ力を越える人数がエスカレータに乗ったため」としているが、それは一面的説明で正しくない。ヒトがいきなりドンと乗ったのならあり得るが、1段ずつ徐々に負荷が増えたのだから、ブレーキ力の限界値前に警報・遮断する必要があるのにそれが正常に動作しなかったか、その条件を設計・設定時に忘れていたから「ブレーキ力を越える人数がエスカレータに乗れる欠陥」があって生じた事故だ。人数だけを言うのは素人だましで誠意有る説明ではない。
記事を辿ると「上限9.36トンを超過か/1段に3人も/。製造元説明、全体で7.5トンを越えると停止」と有るが、警備員先導で、1段ずつ負荷が掛かったのだから、正常に動作していれば7.5トン超過時点で非常停止して、それは9.36トン以下だからブレーキでロックされてズリ落ちることはない。ズリ落ち事故になるのは7.5トンで停止せず、9.36トン以上で停止したか、ブレーキ力が7.5トンなかったか、どちらかの設計・設定エラーが有ることは間違いない。ブレーキ力は駆動遮断寸前の駆動力以上なければ安全装置として意味ないではないか。日本オーチスの主張は弁明になっていない。
また、一人あたり65kg、1段に3.5人とすれば、停止動作点は116人33段と制動限界144人42段、1段2人では58段で停止、72段以上でズリ落ちとなり、全長30m前後のエスカレータ(60段前後?)に1段2人ずつ乗るとそれだけで停止しかねないギリギリの値の様である。1階から4階への長尺エスカレータに見合うパワーが元々なかったのではないか?(斜面に沿った方向の力として最大値が言われているのなら妥当だが説明にはない)その点での設計不良もありそうだ。
※
なお、商用周波数で使用する誘導電動機特有のトルク特性として、右上図に示すように起動トルクが小さいため、それを基準にモーターを選択すると停動トルク(最大トルク)が非常に大きくなり、これが非常制動停止限界を越えて乗客を引き上げる基本的理由になった可能性がある。定常回転動作中に負荷トルクを次第に大きくすると停動トルクで突然停止する。本来はその前に過負荷遮断するはずが働かなかったのと、ブレーキ力をそれ以上の大きさに取ってなかったことで逆進事故になる。
逆にみれば駆動周波数と電圧を回転数に合わせて制御するインバータ方式なら最大トルクで起動可能になり、小型のモータで足りるから、そのコストダウンで制御回路分を吸収する様になってきた。家電製品ではエアコンや冷蔵庫、洗濯機などの高級製品がインバータ化されている
設計のノーハウとして、精度を確保する構造設計方法とか、摩耗しても動作が狂わないとか、実用上重要で社外秘の技術は各社当然あって新入設計者を教育するが、それ以前の乗客を安全に持ち上げる最低限の条件は、基本の駆動出力が質量×上昇速度+損失分必要で、牽引力も質量×G×sinθ必要だ。モータの電流はその牽引力にほぼ比例し、更に損失分が加算されるから、モータ電流値を管理して自動停止すれば設定値以上の過負荷は避けられる。この設定値での牽引力が、非常ブレーキ力より小さくないと停まったらずり落ちてしまう。その条件を満たさない設計は明らかにミスである。それが刑事罰をもって責任追及すべきエラーかとなると、創業100年以上の歴史有る設計製造会社が基本的な理論解析をしてないとは考えがたく、少なくとも上級技術者・技術責任者の指導責任の問題は出てくるだろう。被災者の負傷の程度が軽く済んで幸運だった。(08/08/05 20:30)
2008/08/05 02:00