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尼崎事故「事実調査に関する報告書の案」A4版307枚本文168枚を読み終えたが、12/20マスコミ報道にあるような、直接的なJR西日本会社糾弾の記述はなく、「2.20.同社の安全管理体制」章を中心に役職者たちの酷い陳述が淡々と述べられているだけだった(P151〜156)。そこを読み込めばその無責任陳述に度々唖然とするが、マスコミ報道にはその引用もなく歯切れ良く指弾するほど読み込んでいるとは思えないから、どうも事故調が「会社の態度事態を報告書に記載したこと自体極めて異例で厳しいもの」とかの詳細のコメントを添えたかマスコミ用のアンチョコを配布してるんじゃないだろうか。そうなら事故調もマスコミの扱いに慣れてきたのかなと思った。報告書案の全体的には力作だ。
以下、前ページからの続きである。
勝手な憶測を許容してしまう「事実」に対しては解説を足していて日記#88で触れた宝塚駅回送到着での2度の非常制動についても今度の報告では最初の非常停止により到着前に誤出発防止装置が作動したことに触れて読売などの煽った故意・狂気説の余地をなくす配慮をしている。初回の非常制動についてもブレーキ操作のあったことは認めて「確認扱いの遅れ」ともしているし、JR西日本の判断としても責任事故にも反省事故にも該当しないことを明記している。
(なお、日記88に触れた宝塚駅ポイント手前のSW速度照査地上子対は事故後に設置されたものとの注釈が該当写真に付された。最初からそう書いてくれれば悩まなかったのにと苦笑)
更に、読売などの記事は直通予備ブレーキの使用を「狂気」の根拠としていたが、直通予備ブレーキの特性についての乗務員認識アンケートと安全推進会議の議事録を示すことで、規定違反ではあるが良く効く使い勝手の良いブレーキとして善意の判断で使用したことを示唆することで「狂気」説を否定した。
そもそも「直通予備ブレーキ」は、踏切事故でブレーキが破損して停まれなくなり急勾配で加速して大惨事となった富士急三つ峠事故を承けて独立別系統のブレーキを設置したものであり、厳密な性能規定がないことと、非常制動時に電制を遮断して減速度を落とす仕様だったりで、車両によって非常制動との併用の方が良く効いたり、また緩解が早く使い勝手が良いから規則で常用を禁止していても処罰を以て急かされれば使用してしまうのは無理からぬ処である。
更に故高見運転士がごく普通の、修習成績は比較的優秀(=+1.3σ)な人物であったことを示すデータも提示してあり、これで故人一人の特殊な属性としてJR西日本の体質欠陥に蓋をする傾向を封じている。
ATS-Sの解説は不適切(p98L−11〜−9、p99等)、ロング地上子が「場内信号等に1個設置」ではなく、全信号設置だ。これも車両側と、地上装置側の未分化あるいは混同があり、地上装置では絶対信号に設置の即時停止:ATS-Sn(123kHz)と、絶対信号・閉塞信号双方に設置のロング警報地上子:ATS-S(129.3kHz)と、車上時素速度照査の即時停止:ATS-SW(108.5kHz)地上子対の3種併用であることを冒頭解説ではきちんと述べていない。
車上装置がATS-S(p98L−11〜−9)というのは既に存在しないはずだが、S車上装置はSn即時停止地上子に反応して警報は発して互換性があり、SとSn車上装置はSw速照が無効だが、報告書の記載では動作特性を理解できないだろう。事故調査報告書は安全と事故解析が妥当なら本来問題ないのだが、この様な微妙なミスでも特に理解して貰うべき対象=事故当事者である鉄道員への説得力を大きく削ぐことになるのでどうせ触れるのならより正確に述べて貰いたい。一部には専門意識が極めて強く他分野専門家の指摘に聞く耳持たない傾向もあって、労働省基準の安全装置の考え方(=オペレータエラー前提の防御)をいまだに受け容れられず分割民営化に際して私鉄ATS通達を廃止させてしまい事故を重ねるほど頑迷なのが国鉄JRの実態だからだ。今回の惨事を機にJR東海が、JR東日本から20年遅れでようやくATS-PT導入を決めた。ATS-XでいくのかATS-Pでいくのかまだ仕様検討中だそうで不明だが冒進のないATSの採用は必須である。(予測としてはP互換路線しか考えられないが。-Xの最大の売りが低周波数利用による信号ケーブルのSとの共用だが、それならPN無電源地上子方式に電源を供給すれば済むだろう。信号直近のP地上子だけ双方向のトランスポンダとして現示アップ制御をするのはJR西の統合型Pでとっくに採用されている)
ATS-Pの速度制限設定に128ヶ所中95ヶ所のエラーがあった件は日記#90にも触れたが、設定パラメターの、制限速度、開始点までの距離、制限延長、車種別+α速度(「指定する速度」)のどれにも誤りがあって、従前の報道では+35km/h、新快速で+25km/h、福知山線で−5km/hが22ヶ所となっていたが、この報告では福知山線の207系の+α部が31ヶ所とも0設定の誤りとしている。
誤設定が圧倒的に多い項がJR西日本電文独自拡張部の車種別許容不足カント毎の「指定する速度」の指定であることは疑いないが、その電文独自拡張部を福知山線を担当した設計者が全く知らなかったというのが福知山線「誤設定」の理由だとか!個々のエラー発生ならやむを得ないが設定規則丸ごととは!
制限 規定 | コンパチ 設定 | JR東 設定 | 備考 | ||
---|---|---|---|---|---|
基本 | 65 | 70 | 70 | [km/h] | |
60 | 指定速度 | +5 | 0 | ― | 207系 |
70 | +10 | 5 | 183/485系 | ||
110 | +35 | 30 | 振り子車 | ||
不足カント | 制 限 制 定 法 | 許 容 設 定 | JR 共 通 方 式 |
ここで引っ掛かるのが、JR西日本による独自拡張部を知らなければJR東日本との共通コードで制限値を設定しているから+α部は0km/hで正しいはず。事故現場は207系(許容不足カント60mm)も183系(許容不足カント70mm)も70km/h制限であり、たとえ速度制限決定法が本則65km/h+指定する速度+5km/h=70km/hであっても、JR東日本方式と同じに70km/h+0km/hで全く差し支えなく、この部分はJR東とのコンパチ方式設定であり誤りではないはず。+α部コードの存在を知らずに65km/h設定にしているはずがないだろう。70km/h(+0km/h)ならJR共通方式としてOKなのだ。
指定する速度を0設定したことで5km/h低く設定されているとされた事故調指摘の福知山線ATS-P速度制限地上子31ヶ所につき再確認を求めたい。一昨年11月の誤設定報道では福知山線(宝塚線)の誤設定数#90は22箇所だったから、その差の9箇所がJR東との共通仕様拡張型の正しい設定だった可能性がある。ミス22箇所は不足カント70mm車(183系など特急車両)の+5km/hを0としたミスという意味だろうか?それなら福知山線のJR特急にはATS-P非搭載だから影響なくミスを放置した理由も予想通りで納得できる。
他のP設定エラーは、155km/h(設定可能最大値!)は全桁1でまさしく偶発エラー!2ちゃんねるには事故前から書き込まれていた設定エラーだが大阪環状線でどうやったら155km/h以上も出せるんだ!+35kmk/hはポイントなど加算禁止箇所に振り子用を誤適用、+25km/hも加算禁止箇所に新快速用を誤適用などの内訳だろうが、JR西日本の一元管理体制不存在、基準値不徹底を具体的に示すものとして詳解して欲しい。
量産品製造会社の例だが、製造部別と全社共通の登録領域を設けて、製品仕様を基準に製造仕様、検査標準、作業標準を設け、それに直結する図面と部品表、組み立て図、部品図で1元管理となるよう厳しく徹底していて、どのセクションもこの基本体系の文書を元に作業をするから、基本仕様の変更を知らずに実作業を行うことなどまず有り得ない様になっている。仕様に関して係・班や個人の手控えから作業をするなど一元管理の意味をなくし厳禁だ。
私が製造会社の感覚だからかも知れないが規定・図面の一元管理が必須なのに、JR西日本はあまりに酷すぎだ。他JRも同じなのだろうか??この改善は事故防止にも重要事項だと思う。
馬鹿言ってんじゃないよ!というのが運転曲線作成時の条件値布数エラー!勾配の正負を取り違えていたり、列車長7両編成140mを10mと設定していたりで元々運転できない運転曲線を元に更に余裕時間ゼロとしてダイヤを組んでいたと!
エラーはどんなに気を付けていても必ず起こるもので、それが外に出るまでに捕まえて修正する手段・体制と、運悪く出てしまった場合に早期に発見できる体制が必要だが、個人的勘違いを防ぐために、この手の多パラメターの演算ソフトは必ず一覧できる設定画面を設けてこれをハードコピーして点検者の検図承認印を並べるものである。ここで設定パラメターの適否を他人がチェックしていればエラーを発見できた可能性が高いのだ。承認・検図印が全部メクラ判だったのか?そんな配慮もない現場自作アマチュア型ソフトだったのか?耐震偽装ソフトだってプリントアウト提出を義務付けているし、見よう見まねの職場アマチュアプログラマーだってそうした出力書式ぐらい考える。それなのに安全に直結する運転曲線計算に対して信じがたいルーズなことだ!
そして、以前にも触れたが「一目瞭然」はエラーを激減させる良策だから、意識して設定値は必要箇所に表示させることが必要だ。曲線のRCS、勾配などは昔から表示しているのだから速度照査などATS地上子設定だって看板を立てて置くべきだ。弱い者苛めで在庫や無理を徹底して労働者・下請に押しつけ大企業にのみ利潤を集中するシステムとして不評の「カンバン方式」の一部ではあるが、一目瞭然に整理してミス発生を抑えて点検を容易にする効果は大きいのでその部分は採用した方が良い。
報告書で事故車207系の車内写真を見ての印象は総武・中央、山手など東京の通勤電車に比べて掴み棒と吊革が大変少ないことが気になった。座席の肘掛けはJR東ならそのまま掴み棒として網棚と天井に繋がっている。
負傷者アンケートでは掴み棒や吊革に掴まっていた乗客の怪我が軽く済んでいるし、死因の窒息死や骨折死というのは車内を飛んでくる他人の衝撃の下敷きになっての圧死がかなりあるらしい。JR東車両並みの掴み棒と吊革があればそこで衝撃が分散吸収されて死なずに済んだ人も少しは居たろう。簡単に立証はできないが検討課題だ。
相変わらず抜けている部分は1968年頃に続いた国鉄での過速度転覆事故に対してや、'88年末の姫川事故など函館本線大沼前後で3度も繰り返した過速度転覆事故に対しても監督庁たる運輸省がなぜ指導通達を出さなかったのか!という指導監督責任に絡む基本事項に触れていない。これらの過速度事故に際して何れかの時点で発生のリスクを吟味していたら、尼崎事故地点は防止対策が採られていた可能性があるのだ。
現に現場オペレータに精神主義ばかり強調して安全装置にはルーズで次の惨事はきっとここ!のJR東海が「40km/h差以上の制限箇所に速度照査を設置する」基準を設けており、この東海基準なら非常制動で防御されて最悪でも転んだ掠り傷程度で済んだ事故だった。
1967年の私鉄ATS通達は実施以降、故障時の誤扱い以外では大事故を起こしていない優れたもので、この水準の過速度防止通達は'68年〜に出す技術的能力は十二分に存在した。
それなのに旧国鉄JRにものを言えないかの運輸省の体制は掘り下げる必要があるだろうが、事故調が監督庁国交省から独立しておらず、その下部機関では出来ない相談なのか?
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