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[134]. 真空管ラジオ製作数寄者本発見

 「真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦 定年前から始める男の自由時間」という数奇者本が概要解説型マニュアル本で定評の技術評論社から出されていて懐かしく衝動買いしてしまった。
 マニュアル本といえば重箱の隅を突っつく秀和システムトレーディング社刊とこの技術評論社刊の2冊を揃えれば高度の利用まで概ね用が足りたものだが、この技評社はマイクロソフト社が記事中の1著者の言い分が気に入らないからとマニュアル作成請負など全面取引停止を通告して実質廃刊とさせたThe BASIC誌の出版元だった社である。MS社による大変な言論弾圧であり犯罪同然の措置だったが、その後の独禁法違反のOS−PC抱き合わせ販売で123と一太郎を駆逐し市場を席巻支配するなど、横暴の限りを尽くした経過で、今後さらに何を言い出すか分からない米西部のならず者ガンマンの相手をする様な不安があって、使用ソフトをMSに一本化しないよう気を付けているのだが、残念ながら気力と体力が伴わずFreeOfficeを組み込みATOK一太郎と123で頑張っている程度でLINUXは永らく積んだままになっている。DOSまでの時代はソフト開発にはアマチュアでもThe BASIC誌などの解説と具体例で結構重箱の隅を使いこなせたものだが、Windowsではそうしたノーハウを伝える雑誌が潰されてPCを自動計測システムに組み込む様な使い方ができなくなってしまった。あんな無闇にフリーズし、現場オペレータが無関係の他ソフトを並行して起動できるシステムに大事な計測を任せられないという思いも強く、かなり廃れてしまった。

 内容は鉄ヲタ本に例えれば旧国鉄マニア本みたいなもので、5球スーパー組立て記事とか、クラシックラジオ修理法、代表的回路図集、ラジオTV誌の概史など、叔父さん向け「なつかしの」記事だらけではあるが、バラ部品による自作可能な良質アンプというなら、真空管式に限らず、小数キャリア消滅ノイズや急峻な遮断特性から混変調歪に泣いたバイポーラトランシスターを避け、パワーFETアンプとか1ビットPWMアンプでも良いのだが、それではB型車内警報機受信機の様なヒーター灯るほのぼの〜の雰囲気は出ないからだめか!

<1>  まったく意外な事実としては「米占領軍がスーパーヘテロダイン方式を推奨して拡げた」という話。私は戦前・戦中に資源節約と防諜のため低感度の並3、並4、高1といった国民型ラジオが推奨され、スーパーヘテロダイン方式のトラッキング調整技術も部品も普及せず簡単には作れなかったためと思っていた。当時はアマチュア製の受信機が数多く出回り、スーパー方式だと同調バリコンと局部発振バリコンを別々に調整して受信するので、一旦同調を外すと再受信にえらく苦労したのだとか。他の記述をみるとスーパー普及が国の方針P20とあったり、国策型を指導P109とあり必ずしも一貫した記述にはなっていないし、戦中の防諜国民型推奨か戦後の米占領軍と政府御推薦かはいわば表裏の関係で矛盾対立するものではない。戦時中のアマチュアはそんな初歩的なスーパーヘテロダイン方式の短波受信機でも作るとスパイ行為として憲兵に連行されたそうで、それを避けるために短波用のスパイラルコイルを作ってアンテナコイルに鰐口で結んでBBCやVOAを聴いていたのだとか。日本の敗戦の方向を決定的にしたミッドウェー海戦敗北はそうした短波放送受信機でかなりの日本人が知っていたのだとか。まるで北朝鮮!というかこの時代の大日本帝国が北朝鮮に引き継がれたのではあるが。そんなエピソードで国民型「防諜」説の信憑性を信じたのだった。

<2>  かっての真空管メーカーは全盛期にマツダ(東芝)トップは異存ないが、集約される中で残ったメーカーになぜかFUTABAが入ってない(記事ではマツダ、NEC、日立、松下、TENを挙げている)。現在はディスプレーなどのメーカーとして鉄道車両にも使われて今も生きている会社だが、秋葉原に行くと安物の首の曲がった真空管が売られており、初段管や、出力管はブランドものを奮発しても、性能をそれほど期待しなくて済むマジック・アイとか整流管ではこの首曲がりFUTABAに大いに世話になったものだ。
 ある日、本社会議室でディスプレー部品の販促展示会があって通りかかって覘いたのだが、ロートルの説明員に「昔、真空管を作ってたFUTABAさん?」と尋ねるとそうだというもんで思わず「ずいぶん使いました、あの、首の曲がってて安いやつ!」と言ってしまい双方大爆笑となったのだった。「鉄道用で最もきついのは『10年後20年後に入手可能か?』と聞かれ、電気屋の時間スケールじゃ即答できなかった」といわれ納得。方式としては今も優れているATS-Pが今稼動20年にしてその問題に曝されて現在の部品での再設計を迫られている。

<3>  また特徴あった製品も紹介が欲しかった。欧州系(フィリップス系)真空管導入で低消費電力高安定の松下とか、観測用ブラウン管では優れていた日立とか、大食い多品種のGE系を作り続けて、HKリーク故障の多発したNECとか(PC9801付属のCRT2台で3回も経験!真空管製造を撤退してもCRTカソードの弱点はそのままだった訳で、次からは敢えて他社製CRTディスプレーにした!)、もう生産中止なのだからハッキリ書けば良いのに。欧州系導入当初の松下もヒータ断線には苦しんだ様だが、オーディオ初段は6267とか、出力段が6CA7/EL34、整流がGZ34/5AR4とか独自の系列を形成していて、オーディオ用の6AU6/EF94、12AX7/ECC83、12AT7/ECC81、12AU7/ECC82なども一緒に使われた。(6CA7はピン配置に関係と思われる寄生発振で高周波出力用には向かないとされる)。同社がMTBF(故障間平均時間)を突き出して居たのは、自身がそれに苦しんでいたのだろうか。
 今も国内で作り続ける真空管として、マグネトロンやブラウン管、進行波管の指摘は要ったのではないだろうか。また視認性が良く高級オーディオやVTR・HDRに使われてきた蛍光表示管も考えてみれば真空管そのものだ。旧東欧諸国・中国ロシアでしか作られていないというのはラジオ用真空管の話だ。

<4>  またアマチュア製ラジオを一掃したのは部品代総合計より安い値段で5球スーパーを発売したサンヨーであり、これを各社が追いかけてアマチュア製ラジオ市場がなくなったエポックだから、メーカー製一般の台頭でそれを説明しては妥当じゃない。それまでラジオ製作販売はサラリーマンの割の良い副業だったのだ。

真空管電極
名称電位機能
フィラメント熱陰極兼用
ヒーター……陰極加熱
(熱)陰極/カソード
第1格子/制御格子/
コントロールグリッド
0〜負増幅入力
第2格子/遮蔽格子
スクリーングリッド
陽極電界遮蔽多極管電極
第3格子/抑制格子/
サプレッサーグリッド
0(〜負)陽極
2次電子放出
抑制
ビーム形成電極
陽極/プレート/アノード出力
 「4極管はほとんど使われなかった」という解説はどこから来るのだろう?もしかすると42とか6AQ5、6V6、2E26、6146/2B46、807、25E5などといったビーム4極管を回路屋的に5極管扱いしたのかもしれないが、真空管構造としては4極管だ。在来線こだまの列車電話の送信管はたしか松下製の双ビーム4極管だったはず(型名不詳6360、6939?前者の様な気がするが使用周波数からすると後者か?)。

(National表記)
 単純に4極管を構成すると陽極の低電圧域で2次電子放出現象を起こして負性抵抗領域を持つダイナトロン特性と呼ぶN型特性が現れ寄生発振を起こして使い難いが、ビーム4極構造では第1第2グリッドの位置を合わせて電子流が陽極手前の空間で収斂してこの空間電位で陽極からの2次電子を抑える構造としている。陽極2次電子が#1#2グリッドの支持棒方向の電子で発生しないよう陰極電位の「ビーム形成電極」を置くが5極管の第3グリッドが陽極からの2次電子放出を抑えるのとは違い、この電極は格子支持棒の影部の陽極に電子を当てないための補助である。正電位の第2グリッドが負電位の第1グリッドの影に配置されていることで、第2グリッド電流:第2グリッド損失が小さくなるのが特徴だった。類似真空管でみれば5極管の6AR5、6BQ5とビーム4極管の6AQ5を比較すると後者の第2グリッド電流の割合が心持ち少ないのはその構造のためだろう。
 同書掲載の底面接続図をみるとビーム4極管は総て5極管として表記されているが、結線図としては関係なくても、構造略図としては誤りだ。ビーム4極管の略図は左図中側のものが長らく使われている。(古い松下の真空管一覧表では送信管は上側か記載省略、一般受信管では5極管表示!になっている。出力管はビーム4極管が主で、5極管は寧ろ少数派=6ZP1、6AR5、6BQ5等。同資料では42も5極管としているが古くからあるビーム4極のはず。私の記憶違いだろうか?それとも動作特性さえ似ていれば5極でもビーム4極でも良いのだろうか?:どうもそういう品種があるらしい'08/01/14)

<5>  雑誌の歴史では半導体化をリードした「トランシスタ技術」誌を除いたのは「真空管」が主では無いためなのだろうし、技術より無線局運用が主眼のCQ誌が除かれたのも理解できるが、そうした内容を問題にするなら、今は超ヲタクオーディオ誌に凋落した「ラジオ技術」誌の創刊からしばらくの斯界をリードした高度な水準は触れるべきだろう。
 当時の老舗は[国報線無=無線報国]の「無線と実験」誌だったが、新技術を立ち上げたのは圧倒的に「ラジオ技術」誌に集うアマチュア・半アマチュアだった。
 歪みを抑え周波数特性を平坦にする負帰還アンプ製作実験や理論解析、その調整失敗から超高域発振を起こしたアンプから録音したことで歪みと雑音の少ない交流バイアス方式磁気録音法の発見・開発、全直結・超直結アンプの実験、OTLアンプ(出力トランスなしアンプ)&スピーカの開発、MFBアンプ(Motional FeedBack Amplifire)の研究・開発など、当時の回路技術の先端がこのラジオ技術誌発なのである。松下がブリッジ方式(電流帰還負性抵抗方式)のMFBアンプ試作を発表したのもこの「ラジオ技術」誌だったはず。後に松下はこのブリッジ方式MFBを直流モータ制御の電子ガバナーに焼き直して製品化している。
 ラジオ技術誌の常連著者でこれらを非常に解析的に扱い、後の真空管式オーディオアンプのバイブル書になった記事を書かれたのが武末数馬氏で、何度か復刻出版され、50年を経ていまだに出版が続いているが、残念ながら武末氏のトランシスタHiFiアンプ記事は現れなかった。学生時代は氏の記事で大いに学ばせて頂き、自動制御理論でしごかれても苦労しないで済んだ。
 一時は「テレビ技術」に改称しろ!と野次られるほどTV回路解説記事ばかりになった時代もあったが、TVに使用される様々なパルス回路の動作を丁寧に解説しこれも教科書的単行本化している。「○○技術教科書」というシリーズで、それはトランシスタ化されても解説の意味が通るほどきちんとしたものだった。「電卓技術教科書」とかも有った気がする。
 これだけエポック技術の集中した雑誌はラジオ技術誌の他にない。

<6>  もっともその輝かしい実績を決定的にぶちこわして今のキモヲタ路線になったのは「真空管か、トランシスターか!」「聴感か、計測値か」というアホな対立論戦をしつこく仕掛けてキモヲタ以外の一般読者に愛想を尽かされたことが決定的原因だ。無論、CPUの選択が汎用の8080やZ80、6809ではなく、極めてマイナーな制御用のTLCSシリーズ(TLSC?)を選んでしまい遅れをとったとか、トランシスタ利用記事が新興の「トランシスタ技術」誌に集中したとかの失敗要因が重なったことはあるのだが、なぜ「聴感に適合する計測値を探求する」とか、「真空管の音の良さの原因」あるいは「トランシスタアンプの不評の原因を探る」とか、キモヲタ以外の読者が興味を示すアプローチを避けたのか?この時の編集長がラ技誌凋落のA級戦犯である。現在の同誌読者にかっての輝かしい技術開発実績を指摘してもまるきり無反応だろう。同名だが全く別の雑誌になったということだ。(基本的な流れとしては、先端・前衛技術の担い手がこの辺りからアマチュアからプロの手に完全に移ったことの反映だろう)

 まぁ、ああでもない、こうでもないと話題の転がる本で、ATS−B受信機なんか到底作りようがないが、同書の記事はいじれる内容なので電気系のヲタは書店でのぞいてみてはどうだろう。100円そこそこのオペアンプICで繰り返し型の
アナコン(アナログコンピュータ)を構成してあれこれシミュレートして遊ぶとか、展開はあれこれ考えられる。重なる引っ越しでポンコツオシロスコープは捨ててしまったが、PCに繋ぐ波形観測装置は入手しようかと思い始めている。「もう自作の時代じゃない!」って、それが各雑誌と秋葉原電気街凋落ヲタク配下転換の基本原因なのであるが。
    See→アナログコンピュータとは
       →アナログコンピュータ試作例
       →Heath Kit EC-1パソコン記事@ラジオ技術64/01〜/03

2006/09/06 01:45
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