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[139].新幹線初の脱線は設定エラー!
    東京駅構内脱線であわや衝突!

 新幹線初の営業線脱線事故は従前「鳥飼電車基地過走本線支障事故」(1973/02/21)と思っていたが、実際は開業直後の1965/08/21 に東京駅で誤出発による衝突寸前の脱線事故が起こっていたことが分かった.ネタ本は新幹線運行を軌道に乗せた主要メンバーの一人、齋藤雅男氏の著作「新幹線安全神話はこうしてつくられた」P77L10〜P91L-4(初版1刷06/09/25日刊工業新聞社刊\1,900.)の記事.システムの具体的構成基準の徹底が容易なことでないことを改めて感じ、齋藤氏がRJ誌の台湾新幹線連載で繰り返しフランス人指令による運行で、運行初期に何が起こるか分からない状態で言葉は双方が母国語ではない英語を使うというBad Mixの危険性を指摘して一刻も早く全面自国運用とすることを訴える切迫感が初めて理解できた.この本を読むまでは執拗に繰り返し過ぎると感じていたが、そうではなかった.
 東海道新幹線は国外企業からの応札がなく国鉄独自の技術体系に統一できて、新幹線支社と国鉄挙げての支援体制が組めた訳だが、台湾は全く別会社に切り離され、構成思想の違う技術が無理矢理組み合わされて、線路は仏独系、ATCと運行システムは日本のデジタル方式にそれとは独立の仏式機器を搭載、指令がフランスで、職域を超えての協力関係や在来線からの協力は困難という幾つもの大きな障害が設定されている訳である.安定した運行を実現するまでに、どこでつまずくのか、それが事故にならず止まるだけで済むのか気が気でないだろう.

当初は出発信号に強制停止がなかった新幹線

 脱線事故の経緯は、東京駅18番線からの回送車運転士が信号を確かめず待ちノッチを行い、車掌もまた信号を確かめず発車時刻にドアを閉めたことで自動発車しポイントを割り込んで2両脱線、本来出発の17番線回送列車は隣線の誤出発に気付き直ちに非常制動を掛け、列車無線で連絡を取ったが誤出発列車を停めきれなかったものだ.運良く衝突を免れたが、対向側だったら衝突相対速度が60km/h以上になる訳であわやの事態だった.ドア閉で有効になる待ちノッチ自身は関西での標準操作だし関東私鉄でも良く見られた操作である.
 誤出発を停められなかった原因は本来設置されるべき誤出発防止の03信号添線軌道回路が新幹線開業当初は駅や車両基地の出発信号に設置されていなかったため. 新幹線の根幹を成す安全設置なのに開業当時は「オペレータのエラーを前提の防御」という基本スタンスではなかったことに驚いた.到着側の03信号添線軌道回路は設置していたし、設置時期は不明だが#16〜#19の過走余裕不足ホームへの03時素式過走防止装置も設置している.当時の在来線の設置基準だった様だが、直後の'66/4の在来線ATS全国設置では出発信号に警報直下地上子を設置している.
SKS過走防止装置
 若干気になるのは、キャブシグナルが停止現示(確認扱いで30km/h制限)なら、運転士が確認扱いをしなければ常用制動が掛かるのではないか?運転士が無意識で確認扱いをしたのではないかという疑問である.折返し直後の停止現示は確認扱いなしで30km/h扱いなのだろうか?7年半後の「鳥飼電車基地過走本線支障事故」では、03信号添線軌道回路48mを超えて進出し本線を支障したATC印字記録が残っている(柳田邦男著「新幹線事故」冒頭.77/3/25刊、中公新書461)

一気に読み終わった齋藤氏新幹線立ち上げ本

 齋藤氏の著書「新幹線安全神話はこうしてつくられた」自体はお勧め.RJ連載の台湾新幹線レポートの比較対象の基準である東海道新幹線自体の立ち上げ経験が数多くのエピソードでリアルに述べられていて、一気に読んでしまった.
 齋藤氏の新幹線関連記事は、運行の直接の責任者として関わった経験に裏打ちされて全体的流れを知る上で大変に分かり易いので、見付ければその殆どを読んでいるのだが、最近、細かな数値や名称のブレが気になりだしていた.社員テキストや物理制限と違う部分が幾つもあり、情報の性質によっては正誤を決めかねるものもある.暫く判断が付かなかったのだが、氏の経歴を追うと、SKS運用の第1線に居たのは開通翌年の1965/7〜1970秋の5年間と若干の準備期間であり、その前後は労働科学研究所所長などとしてSKS現場から離れ、定年2年前の'72/3には国鉄を勇退しており、山陽新幹線開業はその3年後の'75年である.その現役を外れて現在までの時季の間接情報にいくつかの齟齬があることが分かった.
 満87歳に達する現在も「国際連合開発計画エグゼクティブ・アドバイザー(鉄道工学専門家)」として各国の高速鉄道計画に直接助言し、また有用な著書を執筆しているエネルギーには本当に驚くが、書物はまだ食える処だけ拾って食うという認識に成りきれず、酷い場合は誤字・脱字の存在だけで記述内容を全面否定してしまう文系社会だから、出身職場や、少なくとも連載誌編集部が裏付け取材で支えてエラーを埋め、齋藤氏の貴重な経験と意見が誤って捨てられてしまわない配慮が欲しい.RJ誌編集部の使い捨て対応は実にもったいなく酷いと思う。いい加減で知られるパソコン誌だって、概ね編集者が必死に執筆内容の裏取り取材をして、エラーが表に出ないよう手立てを採っている.(それでも残念ながらこぼれるが(w).RJ誌はそれ以下だ。

疑問項目

 世界的な専門家齋藤氏の記事の細部エラーは鉄道門外漢の私が指摘したところでほとんど説得力がないのは重々承知だが、氏に一目も二目も置く立場として指摘だけはしておきたい.

1、02、03定義の不明瞭と接近速度

 新幹線の停止信号には1、02、03に加え02の4種があるが、定義内容に混乱があり不明瞭で誤解を生むのと、01への進入速度を70km/hとしているが、これは30km/hだ.RJ連載でも繰り返された氏の勘違いである.(P107L-3〜P108L4)
理由は、P点で01信号を受けてから次閉塞まで約150mの距離を常用制動で停止するのだが、70km/hでは物理的に止まりきれずに次閉塞に突入し最悪衝突の危険があるためだ.P点からの停止距離Sを若干強めの制動定数20、空走時間2秒で計算すると
だから、P点で01信号を受ける速度は30km/hであり「150mという距離は0系列車の×70信号現示の非常制動」P108L3は誤りだ.

 開業当時のATC速度は210、160、70、30(0確認扱い)、01、02、03と徐行用の110km/hで、それぞれ最高速度210km/h、1/2エネルギー160km/h、駅進入分岐制限70km/h、前方在線停止、確認扱い30km/h、P点停止信号常用制動01、信号無電流02、絶対停止添線軌道回路03、に加え2信号波化後追加が信号無電流補助信号02E、という配置である.これは社員教育テキストも先出新幹線事故の記述も一致してぶれはない.前方閉塞に列車がある場合にP点の変周地上子×2から受信するのが01停止信号であり軌道回路からではなく「そこでこのセクションの150m手前にこの2を発信し、………」は勘違い.RJ連載での鴨宮試験線での同様70km/h記載も同じである.

同じエラー?を追うと、………(こちらは緊急時の手動停止だから全くあり得ない操作ではないが、70km/hから停止して人を拾うにはかなり無理があるのと、全閉塞に徐行速度設定が可能になったのは開通から少し時間が経ってから)P145L−6、
×「ATCを70km/hに変え釦を押して30km/hに」→○「30km/hに変え確認釦を押して進行」が正しい.
p217L6では「30km/h信号を発進し………(地上に待つ)運転士の合図によって停止」と正確に記述しており、まだ存在しないはずの70km/h制限で停止したという前項は誤記だと思う。東京付近だけ先行改造していたのだろうか?

[削除](勘違い!) ポイント不密着での信号支障は直接には無信号電流2で、手前区間でP点変周地上子からの停止信号1となるはず.(P184L−2)

東海道分岐制限70km/h→80km/h化は本当か?

 齋藤氏がRJ連載中でATCの変遷を述べる中で東海道新幹線の駅進入#18番分岐の制限速度が当初の70km/hから80km/hにされたと繰り返し述べていて、永らくそのまま信じていたのであるが、最近どうも疑問が出てきた.当初のATC-1A、山陽ATC-1Bから2周波式全国共通東北上越ATC-1D化に際して速度ランク240km/hが1段増やされ、110km/hを先行車接近停止過程に組み込んだが、その後高速化が図られH13('01).7.28刊資料「ATS・ATC」P171〜173に依れば、東海道で270、230、170、70、30、0km/h、東北上越で最高速度が240km/h/260km/h/275km/hなどとなっており、高速側は10km/h〜20km/h引き上げられたが、分岐制限70km/h、停止確認扱い30km/hは変わっていない.信号の制限速度は制動装置の改良で上げることができるが、分岐制限速度はカーブの乗り心地が絡んで簡単には上げられず、線区により違うことはないはず?そこが大きな疑問だ.(その後さらに300km/h、285km/hが加えられている.ATC-1J車上装置というのは東海道向けの2周波型装置だろうか?山陽はATC-1W化が2周波化.だが'71年運用開始の常磐線各駅停車線(千代田線直通)のATC地上装置名もATC-1Jだったはず.紛らわしい)
 そんな訳で東海道分岐制限が70km/h←→80km/hどちらが正しいかが分からない.東海道では車上装置で信号を読み替えているのだろうか?
ATC制限速度図

#36番か#38番か、長野新幹線高速分岐

 長野新幹線下りは高崎駅から約3.3km地点で上越新幹線から分岐するが、その制限速度は160km/hという日本最高速のものでこれは38番分岐として作成され転てつ装置は鉄道総研が開発した.これを齋藤氏はRJ連載で36番分岐と書いている.Web検索すると「38番分岐」はヒットするが「36番分岐」というのはない.
   参考:[鉄道総研技術フォーラム、38番分岐の技術開発
 社員教育テキストである日本鉄道電気技術協会刊「11新幹線信号設備」にもP58コラムで「高速分岐(38番)用転てつ装置」として諸元と略図が掲載されている.
 なおポイント番数はフログ角θの2等辺3角形の高さを底辺長で割った値で定義されるが、簡易にはその近似値であるフログ角θの1/tanθとして扱われている.

やめて欲しい逆意の「神話」

 「神話」の語源は原子力発電所建設強行にあたり、様々な事故リスクを許容範囲に留められる立地と設備と管理を行うというスタンスではなく、「危険性は全くなく絶対安全だ」と強弁し続けたことを、高天原天孫降臨神話(たかまがはらてんそんこうりんしんわ)を学問たる社会科教科書に力尽くで書き込ませる愚挙になぞらえて科学ではない「安全神話」とからかい非難したことに始まるものだ.ところが「新幹線神話」などという表現が使われるうちに逆の意味に捉える人たちが現れ混乱が起こっている。この本の表題は編集者が噛んでの命名だろうが、それでは「科学的事実を無視して、何が何でも安全だ」と世論を欺く意味になり、新幹線の安全性を実態あるものとし、そうした神話にしてはならないと頑張った筆者の意図に反するものになってしまう.そうとは感じない人たちが増えてはいるが、この命名は優れた内容からしてもったいないだろう.

 プローベ(P156L−2)というのは電気屋の探針:プローブなのだろうが、電気屋も戦前から「ブスバー」とか言ってるからこれは現場−現場の用法の違い.「ブスバー」と聞いてバスラインのこととは普通思わない.変電所構内の電力母線銅棒.

×交流電動機はその周波数によってトルクが決まる(P190L10)のではなく
○交流電動機はそのスベリ周波数によってトルクが決まる
が正確だろう.停動トルクを超える領域の話をしても意味がないから比例の話だけで良い.良く分からない読者が多い項目の表現は特に注意したい.

耐震防護装置
停電による停止方式を選択、ATC復調方式に因る

 新幹線の耐震防護装置が、架線の停電により動作する方式を選んだことについて、同書は「0系車両では、停電時に直ちに非常制動がかかる構造になっていた」(P159L−2)としているが、それはATC信号系の動作に因るもので、車両には因らない.ATCが電源同期式復調だから停電するとキャリア周波数が作れなくなり信号無電流02表示として非常制動がかかるものである.新潟地震に際して脱線して対向線を支障した東京発新潟行きトキ325に対し、対向列車が衝突しなかったのも耐震防護装置ユレダスの動作による停電に拠る非常制動で運良く停止しそれが脱線箇所に掛からなかったためである.
 信号制御方式の停止コマンドではそれこそ地震による停電で非常停止コマンドが発効できない可能性がある.大地震の経験のないフランス提案の信号停止方式を採用した台湾新幹線は耐震防護装置がまだ動作してない様だ.

B点とは?

 駅入線で信号表示が分岐器制限の70km/h→停止(確認扱い30km/h)に変わる地点を「B点」と理解していたが、齋藤氏は同書(P205L10、L−5)で、「駅入線で信号表示が70km/h→30km/hに変わり、速度が実際に30km/hを切る地点」と取れる表現をしている.「助役は『普段ではB点を時速30km以下で通過し、定位置に止まる.ところが、この時はその3倍ものスピードで目の前を通過し、非常停止用のスイッチを押しても、効果は全くありませんでした』といっています」という記述である.これは先出の信号制限30km/hと70km/hの混同の結果であり、真相は前者だと思う.

 構造としてはホーム前の閉塞そのままではなく、その閉塞への踏み込み送信として停止目標丁度に止まれる位置で30km/h(0の確認扱い)信号を送信して時間を詰める方式.
 すなわちB点とは70km/h信号表示から30km/h信号表示に切り換える点だが、なぜ単純に閉塞で切り換えずに踏み込み切替にするのかは、停止目標ギリギリまで70km/hで走って時間を詰めたいということ.'06/3/18以降の東海道はデジタルATC化で、停止点基準の速度照査(パターン照査)に変わり70km/hから最適の制御が行える.
2006/11/11 22:00
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