JR千葉支社通達と東中野事故

next 【 JR東日本 千葉支社通達文書 】         昭和63年10月24日

ATSの取扱いについて

  ATSの取扱における、「確認扱い」、「場内及び閉そく信号機の停止信号に対するATSロングの警報の表示があった場合」、「出発信号機の通過列車に対するATSロング鳴動時のチャイムの扱い」については、下記によるものとする。

 確認扱い
  ブレーキ弁ハンドルをブレーキ位置に移し、自動ブレーキ使用車は0.6km/cm^2以上のブレーキ管減圧、直通ブレーキ使用車は2.0kg/cm^2以上の直通管圧力の昇圧、電気指令ブレーキ車使用車はノッチ以上の使用を行ったのち、確認ボタンを押す。
  場内及び閉そく信号機の停止信号に対するATSロングの警報の表示があった場合
(1) 「警報赤」と喚呼する
(2)  直ちにブレーキ弁ハンドル位置をブレーキ位置に移し、自動ブレーキ使用車は0.6km/cm^2以上のブレーキ管減圧、直通ブレーキ使用車は2.0kg/cm^2以上の直通管圧力の昇圧、電気指令ブレーキ車使用車はノッチ以上の使用を行ったのち確認ボタンを押し、列車が停止するまで緩解してはならない。
(3)  前(2)の場合、停止信号を現示している信号機から相当の距離を隔てて停止したときは、「停止位置移動、制限25」と喚呼し、当該信号機の外方50メートルの地点まで時速25キロメートル以下の速度で注意運転する。
 なお、輸送混乱時に停止信号の外方に距離をとって停止した場合は、さらに輸送障害を増大させることになるので、そのような箇所においては、最善の注意をはらって当該信号機に近づき、その信号機の閉そく区間内に停止すること。
(4)  チャイムの扱いについては、警報を発した信号機の進行を指示する信号の現示を確認した後にチャイムを消すものとする。
  出発信号機の通過列車に対するATSロング鳴動時のチャイムは、警報を発した信号機の進行を指示する信号の現示を確認した後にチャイムを消すものとする。

千葉支社88/10/24通達(HP直リン) 〔資料出所〕
読売新聞縮刷版1988/12/19朝刊(1)左上、5段見出し10段140行記事&写真52行分「混乱時、赤信号越し停車を」「JR支社が指導文書」「事故(東中野)翌日に撤回」
 千葉動労2003年春闘パンフ1「再び東中野事故が」付属資料「進行の指示運転」問題


[ 通達文書の解釈 ]
  この文書の2項(3)目のなお書き(青色表示部)が事故誘発指示書なのは確かだが、その具体的な問題点を考えてみよう。
  読売新聞'88/12/19朝のスクープはその信号機の閉そく区間内に<停止すること」という文面を文字通りに捉え、赤信号冒進指示書として弾劾し、千葉動労見解もこれに拠っている。(というより、千葉動労サイドからのリーク記事の可能性が極めて高い。理系音痴だらけの新聞記者に独自の技術的な判断力がある可能性はほとんどなく、持込ネタを「識者の見解」などとして報道するからである。当該組合なら現場の状況が判っており技術的内部的情報も得られる立場にあり、職場の安全確保にその程度のことは当然の措置だから)。

  しかし、現場の運転士が本気でその通達を冒進指示と捉えていたかは甚だ疑問である。文脈としては2項(3)目、一旦停止規定の例外指示で、停止すると一層遅れるから「最善の注意をはらって当該信号機に近づき、その信号機の閉そく区間内に停止すること」となっているから、「その信号機の閉そく区間内」が、信号手前の意として誤って使われたことを見抜いていて、その程度の 素人感覚の連中が通達を出していると溜飲を下げて'88/10/24通達〜12/05東中野事故発生まで放置したのではないだろうか。マジで冒進通達と思ったら、組合からその間に交渉要求や糾弾ビラ配布が絶対にされているはずだし、本当に通達文面通り運転すれば見通しの悪い場内信号機でもっと早い時期に衝突事故になっている。


  真の問題は「遅れを拡げないためには規則を無視して一旦停止をしないで(以上’なお’書き部)停止信号直前まですすめ(本文)」という部分にあり、停止操作をうっかり怠ると、Y現示制限速度55km/h(中央・総武緩行。千葉以東は45km/h)のまま赤信号に突入することである(上の図参照。斜線部上限の運転を要求)。この一時停止違反は過密ダイヤを維持するために当然の運転操作として日常的に行われて来たことで、簡単にやめられないのは労使とも分かっていた。それが10/24通達として明文化されただけなので職場全員に指示されたのに問題にもされなかった。なにしろ、この2項(3)目、一旦停止規則を守れば「遵法闘争」として恣意的に処分され、国労・全動労乗務員徹底排除に使われた直後の時代のことである。
  東中野事故後、ATS赤信号警報での一旦停止が徹底されると、連日8〜10分の遅れ(読売12/9夕刊19面)となった事実からも、一旦停止規則の無視が常態化していたことが分かる。

  事故後の一旦停止徹底指示は組合ではなく会社から出ている。事故誘因の真因を脇に置き、言葉のミスと逃げられる点だけを突くとは「極左」組合にしては、会社の都合を斟酌し過ぎではないか?
  事故誘発通達について、会社をまともな交渉に引きずり出すための過渡的主張なら判るが、実務的に安全対策を追い掛けるべきときに、いまだに「冒進指令書」という解釈のままでは、事実を曲げた針小棒大プロパガンダ型という印象は付いてまわるだろう。特に現場の運転士たちに。納得できない誇張のオオカミ少年型宣伝では人は安心して動けない。

  なお、「1項、確認扱い」の文面からは、ATSの機構上は、ブレーキハンドルを全く操作しなくても、確認ボタンは有効なのではないか、との強い疑いが沸いて、ATS回路を調べると、「重なり位置」までブレーキハンドルを操作すれば実際ブレーキは掛からなくても確認扱いは成立する。(See→[ATS-S車上回路図,ブレーキ接点,重位置])。東中野事故現場の衝突データは現示制限速度55km/hを承けての運転速度である52km/h前後で冒進、衝突したことを示している。すなわち警報を受けての確認扱い時にブレーキが全く効いていない速度なのだ。



  この時、せめて停止位置修正時の25km/h制限を適用していたら、運動エネルギーでは速度2乗比例で20.66%に激減しており、7mとはいえ非常制動滑走痕があるのだから衝突せず停まれた可能性も増え、最悪でも2名の人命は失われずに済んだはずだ。「素人並み」のエラーをやる管理側に無条件で服従を強いられるイマイマしさは理解するが、組合として一旦停止規則無視通達に反対したままでも、警報受信後の制限速度25km/hは確認して職場に徹底させるなどギリギリの安全追求策はまだ残されていた。回復運転を助けるため、制動途中に現示アップがあればブレーキ緩解して良いことを通達に盛り込ませるとか、突っ込み所はあるだろう。'01/04/18東海道線富士駅冒進事故のデータでみる限り43km/h前後で過走防止速照に当たっているから、この「警報後25km/h制限」は今も守られていないようである。ATS−Sxで運行する錯綜過密区間、名古屋、北九州、札幌、広島周辺では影響が大きい。千葉の錯綜区間は総てATS−Pに換装済みだが、多数の夏臨が君津&上総一宮先の−Sn区間に入線するから千葉動労にもまだまだ関係する

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Last update: 2004/05/31
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