土佐くろしお鉄道宿毛駅場内
ATS-ST地上子位置計算　(#83)

　 算式は宿毛・宗像事故試算などで既に公開している通りです。ロング地上子位置と、時素速照対による「過速度防止装置」、「過走防止装置」の定数決定法を１枚のシートにまとめました。過走防止装置計算の実用には想定常用減速度をもっと落とさないと怖くて試験が出来ないなど、現場なりの問題はあるとは思いますが、「信号」のベールを１枚剥がすものになれば幸いです。
　 この計算結果は、事故現場の安全装置ATS-SSがまともに働かなかった理由を雄弁に物語っており、設計建設の鉄建公団、事前審査により認可した国交省の責任と、人材を確保出来ない第３セクターの安全問題を浮き彫りにしています。
　 すなわち、ATS-SSの３種の設定のうち２種に大問題があり、先ず、

• 　ロング地上子位置が51km/h対応で設置され、特急の120km/hを無視していたこと。もし正しく計算されていれば運転士の意識が無ければまず停止していた。（従前、無意識の確認扱いで事故になった例が多く、ＡＴＳ−Ｓｘ系の致命的弱点ではあるが。）
  　これは、「計画運転速度」の「その閉塞内の最高速度」という算定速度選択基準に照らし、事故現場の「特殊自動信号方式」の閉塞ではない小区分を誤って採った可能性があることと、自動信号区間では、駅近くの閉塞の文字通りの計画運転速度を採って、最高速度を無視している可能性が他ＪＲにもあるやもしれない。運輸省承認の算定速度選択法にエラーがある可能性が濃厚である。
  
• 　ATS-ST型時素速照について、分岐器過速度防止装置と思われる１対には減速余裕距離がほとんど採られて居らず、過速度を検出して非常制動がかかっても、制限地点にそのまま飛び込む設定だった。この改善計画はまだない様だ。更に、
• 　過速度防止装置は最高120km/hからも制限速度25km/hを防御するには３段〜４段の速照対が必要で、これがあれば完璧に停止して事故にならなかったが、１対しかなく全く無効だった。行き止まり駅でのこの程度の設備投資は中小零細鉄道事業者が耐えうる支出だと事故後の通達には掲載。なんで事故前に、私鉄ATS通達のように優れた行政指導をしないのか！

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ATS-ST地上子位置計算　　　　　　'05/03/30 <TBL-1>

ATS-ST地上子位置計算				電車・ 気動車	機関車牽引列車			備考
					旅客列車 高速貨物	貨物
基 準 値	非常制動定数			28.5714	20	15		電車・気動車の非常制動定数は20/0.7として制定されている
	〃　減速度	km/h/s		3.9683	2.7778	2.0833
	空走時間	ｓ秒		2	3	6
	ATS-S動作時間	ｓ秒		5
	ST車上時素	ｓ秒		0.5	0.5	0.55		OERのOM-ATSなど、時素１秒の時素速度照査もある
	ST地上子有効幅	ｍ		0.5
想 定 値	想定常用制動			19	15
	実効勾配	1/1000		0
	最高速度	km/h		120	100	65
設 定 値	分岐位置制限速	km/h		25	25	23
	減速余裕距離	ｍ		74.0
	過走余裕距離（実）	ｍ		10.0
	想定過走余裕距離	ｍ		20.0				※
	距離切上単位	ｍ		0.5
	速度切捨単位	km/h		5.0
ロ ン グ	設定速度	km/h		120	100	65
	設置位置	ｍ		737.3	722.2	480.3		＝ロング地上子は停止目標基準
				737.33
＃ ０	設定速度	km/h		25	25	23
	設置位置	ｍ		74.0				＝過速防止装置はポイント先端基準
	速照地上子間隔	ｍ		3.97	3.97
	防御可能速度	km/h		45.0	38.3	29.7
＃ １	設定速度	km/h		45	35	32		ATS-ST型速度照査は旅客優先で高減速車、低減速車を切り替えていて、貨物対象の過速度防止装置は構成できていない。その例外がATS-P区間にATS-SFを新設して乗り入れた京葉線で、貨物専用のST時素型過走防止装置を設置している。
	設置位置	ｍ		181.0
	速照地上子間隔	ｍ		6.75	5.36
	防御可能速度	km/h		68.6	57.4	45.7
＃ ２	設定速度	km/h		65	55	50
	設置位置	ｍ		322.0
	速照地上子間隔	ｍ		9.53	8.14
	防御可能速度	km/h		91.5	76.1	61.7
＃ ３	設定速度	km/h		90	75	68
	設置位置	ｍ		515.0
	速照地上子間隔	ｍ		13.00	10.92
	防御可能速度	km/h		116.2	96.5	79.1
＃ ４	設定速度	km/h		115	95	86
	設置位置	ｍ		784.5
	速照地上子間隔	ｍ		16.47	13.69
	防御可能速度	km/h		144.1	119.7
停 止 目 標	設定速度	km/h		0				＝過走防止装置は車止め＝０ 基準
	設置位置	ｍ		10.0
	速照地上子間隔	ｍ		非常停止	非常停止
	防御可能速度	km/h		10.7	8.1	5.0		※　過走余裕が極端に少ないため、充分手前の位置に仮想的な停止目標を置いてこれを基準に「過走防止装置」を設置し、絶対停止地上子だけを本来の停止目標直後に設置する。
過 走 ＃ １	設定速度	km/h		10	5	5
	設置位置	ｍ		26.5
	速照地上子間隔	ｍ		1.89	1.19
	防御可能速度	km/h		20.7	16.2	11.0
過 走 ＃ ２	設定速度	km/h		20	15	14
	設置位置	ｍ		43.0
	速照地上子間隔	ｍ		3.28	2.58
	防御可能速度	km/h		28.0	22.2	15.8
過 走 ＃ ３	設定速度	km/h		25	20	18		無用省略：∵過速度防止装置により一旦は25km/h以下に減速済み。
	設置位置	ｍ
	速照地上子間隔	ｍ		3.28
	防御可能速度	km/h

　 名鉄新岐阜の様に加速されるとアウトだがそれでも大事故には至らない。新岐阜にはホーム中程の20km/h速度照査だけしかなく、絶対停止地上子がありません。これは低速領域のことで大事故にはなりにくいですが、私鉄ATS通達の弱点です。

　　　［ ATS-ST地上子対試算値 ］

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Last update: 2005/04/05 　　　　 　(05/03/30作成)