74-衆-法務委員会-3号 昭和49年12月24日

○横山委員 わかりました。
 次の問題に移ります。
 先般来、国会で八鹿高校の問題が非常に議論をされました。そして、ここに共産党の皆さんもいらっしゃるのでありますが、事は私どもの社会党に対する、名ざしではありませんけれども、一部の政党とかという話で非難をされておりまして、わが党としてもたいへんこの問題について釈然としない状況に立ち至っておるわけであります。
 そこで、法務大臣と人権擁護局長がいらっしゃいますから、基本的なものの考え方について一ぺん伺いたいと思うのであります。私のこれから申し上げることは少し法理論からはずれているかもしれませんが、人間としてひとつ聞いてもらいたいと思います。
 これは何も部落の人たちばかりではありません。あらゆる人間がそうでありますけれども、人間というものは自分の弱点を持っています。あるいは人に言ってもらいたくない点があります。恥ずるところではないけれども、やはりからだの悪い子供を持っておる親は、近所の人が自分の子供についていろいろなことを言うのをたいへんいやに思うのであります。
 人間の一番アキレス腱となっている問題、部落の問題もその一つでありまして、島崎藤村の「破戒」という小説の中で、いかなる状況であろうとも部落であると言うなかれという、あの小説の根底を貫く一つの問題についてわれわれは非常に感銘を受けておるわけでありますが、世の中は広うございますから、そういうことについて、日本人すべてが藤村の「破戒」を読んでおるわけではありませんし、部落の人たちがいないところもあるわけなんでありますから、これは全部の国民が知っておるわけではありません。また、島崎藤村の時代の、「破戒」における丑松でございましたか、彼が持っておりました人生観といいますか、そういう時代とはいま違うのでありますから、私どもは、そういう部落の人であろうとも何ら恥ずるところはなく、また堂々と権利主張を訴えるべき時代であるというふうに私は考えています。
 それはそうであるにしたところで、この満座の中で、かつて共産党の委員長さんでもあるところで、めくらとか、どめくらとか言ったということで、盲人協会から猛烈なあれを受けて謝罪をなさったこともあるんですが、まだそのくらいならいいんですけれども、えた帰れ、よつ帰れというふうに満座の中で言われたときにどんなに人間的激怒を覚えるかということは、部落の歴史、部落の習慣、部落のいろいろな問題を検討していない人にはわからない、まさにそれは知ることができない、そう私も思うんであります。
 同僚委員の中にはこの問題の経緯をよく御存じの人もあるかと思うのでありますが、一つの侮辱をする、あるいは、部落の問題のみならず、いろいろなばかにした言辞を吐く。それが普通のばかやろうとかそういうことではなくして、全く致命的な言い方をする。たとえば、これは例でございますから何でありますが、おまえの子供はどろぼうだとか、どろぼうの親だとか、そういうことによって激怒をする、人権をじゅうりんしたようなことばがある。それでも、おこってたたけば暴力であるか、それでも、おこって刃向かえば刃向かった人間がけしからぬかということなんであります。いまの法体系は、けしからぬということになっています。私は、暴力があったと言っているわけではありませんよ。それでもやはり、暴力をしては悪いということには一応なっている。なっているけれども、それだけで片づく問題であるかどうかということなんであります。法務省の人権擁護局が存在する最も基本的な問題は、どんなに言われてもたたいたらいかぬということの原理に人権擁護局はほんとうに立っているんだろうか。法律論だけで人権擁護局は法務省の中に存在しておるんであろうか。人権というのは一体何だろう。ほかの問題に優先して人権というものが尊重されなければならず、その優先したという意味は、ある意味においては、ほかの法律できまっておるけれども、それを止揚して、なおかつ人権のほうが優位に立つという立場が人権の問題の基本的な問題ではなかろうかと私は思うのであります。
 八鹿高校の実態についていろいろ議論がある。議論があるけれども、まさに事の本質というのはそういうところにあると思うのであります。私の投げかけた問題は、八鹿高校に限定した問題ではございませんよ。しかし、八鹿高校の本質的な問題はまさにその暴力以前の問題として、人権をじゅうりんするような言動、挑発、そういうものがあって、それに対して立ち上がったことについてだけ非難をして、それで事が済むだろうか。法務省並びに人権擁護局を持っておる法務大臣として、この種の問題をどうお考えであるか伺いたい。

○稻葉国務大臣 きわめて、人の心の問題に触れられた根本的な問題でありまして、どうも私のような教養の不足な者にお答えできるかどうかわかりませんけれども、基本的人権を擁護する最高の責任者としての法務大臣に在職しておりますから、私の現在の所見を申し上げたいと思うのです。
 私は、同和問題については、差別事象の解消は国民的な課題である、そういう観点から、人権擁護の機関といたしましても、根本的解決は人権思想を啓発する以外にない。人間は、みずからありてあるものではない、あらしめられてある。自分の出生について責任を持たない者が責任を負わせられるということは不当である。そういう意味での人権思想を啓発して、差別事象を解消することに人権擁護機関としては努力してまいりましたが、その効果がいまだにあらわれず、御指摘のような事象が起こっており、問題になっておりますことはまことに遺憾にたえません。
 本来、差別はあるべきものではない。ただ、事実として差別は存在いたします。その差別は、差別的精神を持っている者、先ほど御指摘の、口にすべからざることを口にする連中、そういう差別的精神を持つ者、差別されているという精神状態にある人の心の中に差別が存在する、そういうふうに思うのでございます。これも、現実としては遺憾ながら、われわれの努力の不足のせいもあって、存在を断ちません。
 御指摘のように、言論も自由だとはいいながら、言論は、その内容いかんによっては暴力以上の損害を人の精神に与えるものでありまするから、問題になっているようないろいろの事案をそういう点で誤りなく――現行刑罰法規は、言論の自由ということを擁護しており、形式的、物理的暴力のほうを処罰の対象とするという点で、横山さんもそうであろうと推察をいたしますが、私もどうもそういう点では、やはり人間のつくった刑罰法規というものは不完全なものだなという感じを抱かずにはおられませんが、しかしそれは、公正なるべき独立の裁判所があり、それに準ずる捜査当局としての半ば独立的な機関である検察庁があり、具体的事案に対する刑罰法規の適用等について深い考慮をなされてしかるべきものだ、こういうふうに存じます。
 だから、私のあくまでも申し上げたいのは、そういう、人の心の中にある差別の解消というには人権思想の啓発ということが最も重要なことでございまして、今後法務省といたしましては、人権擁護機関の強化、充実をはかって、人権思想啓発に一そうの努力を傾け、差別事象の解消につとめる所存であります。

○横山委員 あまりこの問題についてここで私が言う時間もございませんし、何でございますけれども、何も法務大臣に聞いてもらいたいばかりではなくて、同僚諸君にもぜひこの視点を、いま私が申しました視点をないがしろにして八鹿高校事件なりあるいは部落の問題を議論するわけにはまいらぬ、それほど歴史的、社会的な問題なんだから、特に人権擁護局を持っておる法務省としては、そういう意味合いでは別な、いま言ったような視点というものを離れてこの問題を論じてもらっては困る、こういうことが言いたいのでございます。
 そういうことに若干つけ加えますと、すでに御存じかもしれませんが、八鹿高校は月一回同和教育の授業が行なわれておったけれども、これは本当の解放教育ではなかった。兵庫県下のほとんどの中学、高校が解放研を設置して、解放のための同和教育が実施されているにかかわらず、この八鹿高校には解放研が設置されていなかった。そこで、生徒の中からこれをつくってもらいたいと言ったところが、同和担当教師が単独で顧問を引き受けないことを職員会議に提案し、職員会議はこれを決議した。顧問のなり手を封じてしまった。生徒はやむなく教頭を顧問に迎えて、校長の承認という変則的な形式で解放研を発足させた。だけれども、先生たちは校長の独断であるといって解放研を認めなかった。学校当局及び県教育委員会、町教育委員会のカリキュラムに従って同和教育を高校教育の中に正しく位置づけ、推進する努力が行なわれていたのであるから、この解放研設置を承認したのはその一環として校長がやったのであるから、校長の立場として行なわれたのであることが大事なのである。
 それから、この職員会議は表面上民主的に行なわれていたようであるけれども、その内実は、学校当局や県教育委員会の同和教育方針に反対し、解放研の設置に反対し、そうして生徒の自主的な行動に反対をしておった。そういう中で生徒は、それに対して承知しないのでハンストを行った。そういう中から問題が発展をしていった。
 ここに私が手元に持っておりますのは、兵庫高教組の八高分会長、八鹿高校職員会議議長の印刷物なのでありますが、要するにこれはどういうことかといいますと、「八鹿警察署殿 要請 我々八鹿高校教職員は、不測の事態の為、職員室、学校より出られない事態にありますので、早く排除していただくよう要請します」。十一月二十日何時何分、十一月二十二日何時何分、十一月二十三日何時何分、十一月十八日何時何分。これはどういうことかといいますと、これはちゃんと学校の先生がポケットに入れているわけですね。ポケットに入れておいて、何かのときにはすぐ時間を書いてぱっと警察に渡せと、こういうことらしいのであります。十八日やあるいは二十日ごろにそんな必要があったか。ごうもない平穏の状況なんですね。その平穏な状況の中に、なぜこういうことを印刷して、先生のところへ全部配られなければならないのかということなのであります。
 これはちょっと議論の生じそうな文章でありますから、あまり共産党の皆さんに挑発的なことになるので、ここで披露するのは避けたいと思うのでありますけれども、少なくともいま言いました一連のこの事実というものは、私が最初に言いました、耐えることのできない条件下に一つ一つが組み込まれていった。最後に爆発をした八鹿高校事件である。やにわに一挙に出たものではない。そういう職員会議なり、あるいは生徒の要求なり、それから生徒の要求は校長も了解し、兵庫県の教育委員会も了解しているにもかかわらず、その先生方がいかぬと言い、そしてハンストをやっている生徒をそっちらかして集団下校するということに対する問題なんです。しかも、その根本は部落の諸君に対する理解というものが違うということ、そしてその過程に投げつけられた侮べつのことばが爆発の素因になったというふうに思うのであります。
 そこで私は警察に、どうもそういうことがほんとうにあったかどうか、重大な問題でありますから、簡潔に伺いますが、衆議院本会議において金子満広氏が、八鹿高校において女教師が裸にされて水をかけられたという驚くべき発言をされました。警察はそういうことを確認をしているのですかいないのですか。

○佐々説明員 お尋ねの八鹿高校事件につきましては、現在兵庫県警におきまして特別捜査本部を設置して鋭意捜査中でございますが、現在までの兵庫県警からの報告では、お尋ねのような事実については報告を受けておりません。

○横山委員 私どもの調査も、そういう事実はなかったというふうに承知をいたしておるのであります。しかし、衆議院本会議でいやしくも一党の代表質問の中に、この学校の女の先生が裸にされて水をかけられたというような事態というものが質問をされ、そうしてそれが「赤旗」で全国にばらまかれる。そうしてしかもそれが解放同盟の諸君がやったのだというふうな印象を与えたとすれば、これは全く残念しごくでございまして、警察はそういう確認をしてないというのでありますから安心をいたしますけれども、こういうことについては問題をさらに紛糾させる原因でもあろうかと思いまして、私はその善処を求めておきたいと思います。
 それでは私の質問をこれで終わります。

○小平委員長 青柳盛雄君。

○青柳委員 私は本日の質問で、最近顕著になりました労使関係においての非民主的なできごと、というよりもむしろ犯罪がそこに介入してくるというか、犯罪的な行為が行なわれるという、そういう忌まわし問題について治安関係の法務省にお尋ねをしたいと思います。

 その前に一言、同僚の横山議員から八鹿高校に起こった事件の問題につきまして御発言がありました。あのような事態が起こった原因についていろいろお話がありましたが、差別が現在存在しているということはわれわれ共産党としても当然認めるところでありまして、その差別をどうやったら根源的になくしていくことができるかという点について、解放同盟の朝田あるいは丸尾派という人たちとは見解を異にしているというだけのことでございます。われわれが差別がないと考えておるとか、あるいは差別意識を持っておるとかいうようなことを言われるとすれば、それは非常な事実に反することでありますから、それは明らかにしておきたいと思います。
 それから、八鹿高校で具体的にはどういうことが動機でああいう問題が起こったのかということについての横山議員の御見解、つまり八鹿高校の教師の側に差別行為があった、そして解放研を認めなかったことに原因があるようなお話でございましたが、これはやはり私どもと事実の認識において違いがありますが、政府が別にこれについて答弁をされたわけじゃありませんから、それについて詳しく述べることは避けます。

 ただしかし、一つだけ警察庁の事実に関する認識の質問があり、お答えがありました。つまり、過日の本会議でわが党を代表して金子満広議員が八鹿高校問題に関連して発言した中に、女子教諭が裸にされたりあるいは水をぶっかけられたりしたというような趣旨の発言がありまして、これは事実に反するのではないかというのが社会党側からの問題提起でありました。そしてこれは議運のほうで現在討議中のようでございますが、ただいまの警察庁佐々警備課長の御答弁によりますと、現在までのところ兵庫県警からは、この事件の捜査の過程で、裸にされ水をぶっかけられた女性がいるという報告は受けていないというふうに単純にお答えがありました。これはもっと正確にしていただく必要があろうかと思いますが、まずその前に、警察庁のほうから兵庫県警にいまのような事実関係があったかなかったかを照会し、その結果としてただいま御答弁のような報告があったというのであるかどうか、それをお尋ねしたいと思います。

○佐々説明員 お答えいたします。
 横山先生の御質問が、八鹿高校事件において女の教師が裸にされ水をかけられたという事実を警察は確認しておるかという御質問でございましたので、現在本件につきましては兵庫県警本部特捜本部におきまして鋭意捜査中であるがという前提で、そういう事実を確認したという報告はないという御答弁を申し上げました。本件につきましては兵庫県警で現在捜査中の事件ではございますが、事実に関し調査をいたしましたそれに対する回答は、正確に申しますと、水をかけられ、ずぶぬれになった女の先生がいる、こういう被害申告はございます。また、服をぬがされそうになったという婦人の先生がいる、こういう事実関係については報告を受けておりますが、御設問のような、裸にされて水をかけられた、こういう事実については現在の捜査の段階では確認をしておらない、こういうことでございます。
 なお、具体的に何のだれがしという先生がだれからいつどういうことをされたか、こういうような具体的な問題につきましては、現在捜査中の事件でございますので、厳正公平なる捜査を確保する意味で答弁は差し控えさせていただきたいと思います。

○青柳委員 捜査中で、これからまだ問題がさらに判明してくる時期がある、またしかも、被害者がどういう方であり、加害者がどういう人間であるかということも捜査の結果によっては明らかになる、こういう御趣旨の御答弁でございますから、それだけ確認いたしまして私の関連した質問は終わりにいたし、本来の質問であるところの労働関係における犯罪行為についてお尋ねをいたしたいと思います。

(サンスイ麻薬所持でっち上げ事件&北辰電機事件)
 私がきょうおもに質問をしたい事柄は、東京にございます、住友独占資本系統の会社でございますが、株式会社北辰電機製作所、これは大田区の下丸子にございます。この会社の労使関係についての犯罪行為でございますけれども、その前に、われわれが非常にショックを受けた事件がこの一、二カ月の間に二つございます。
 その一つは、音響メーカーの大手といわれている山水電気という会社がございますが、そこの労働組合の幹部がたまたまある謀略にかかりまして、麻薬を所持していたということで逮捕されるというようなことが起こったのでありますが、それは、真相を究明していきますうちに、労務担当の山田という専務が実はでっち上げた犯罪行為であるということがわかり、この労務担当が逮捕されるというところまで真相は進んでいったのでありますけれども、これについて、これは単に一山田担当のやったことではなくて、このぬれぎぬを着せられた松田という副委員長は、あやまって逮捕されたわけですが、逮捕されたときに、社内で、松田が会社をつぶそうとして仕組んだ事件だとか、組合には百万円の使途不明金があるなどと触れ回った部長クラスの職制が何人かいた。こういうようなところから見ると、社内に複数の事件協力者がいることをうかがわせるに十分である。会社首脳部は山田の単独犯として責任回避をはかろうとしているが、事件が会社の前近代的な労務政策の一環であり、その頂点をなすものであるというところから見るならば、これは単に一山田の犯罪行為として問題をおしまいにすべきではないという趣旨の、この労働組合の中央委員会の声明も出ているわけであります。
 これについてその後の捜査はどう進んでいるのか、まず最初にお尋ねしたいと思います。

※→八鹿高校事件関連国会質問一覧 1974/11/22〜1975/03/31