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主要因は軸バネゴムの経年劣化か?
切れ味悪い結論 運輸安全委員会事故調査報告書

 東日本大震災前日の3月10日昼ごろ、成田線久住駅−滑川駅間で脱線、滑川駅構内に転覆非常停止した事故の調査報告者が発表されました。

   See→運輸安全委員会鉄道事故調査報告書 2012/06/28
http://jtsb.mlit.go.jp/jtsb/railway/report/RA12-5-3.pdf

 すべての数値が整備許容範囲で、最高速度にも余裕をもって走行していながら、線路状態と台車軸バネゴムの劣化が重なり曲線部で輪重抜けが起こって脱線に至ったのだろうと推定しています。

X-Y交換表示  左側のグラフからは、荷重に応じてバネがたわむ特性が、経年で変化して2割方小さくなることが即座に読み取れて、今後は経年変化しない材料を使うか、経年と走行距離などで厳しく管理して即座に新品に交換する必要性を示唆するものですが、実はこのグラフ、事故調報告書掲載のグラフのX軸とY軸を入れ替えたもので、写真レタッチソフトを使って右に90度回転させて裏焼きにしています。文字は裏焼き前のものを貼りました。事故調オリジナルのグラフは右側で、下図、台車図面の赤い部分が問題の軸バネゴムです。

なぜ逆軸表示?独立変数が縦軸で、従属変数が横軸に!  <2>

発表のまま  数値的には全く同内容ですが、日本の一般社会ではグラフの初歩的慣習として横軸(X軸)が独立変数xで、この値によるf(x)をY軸に採るとして慣れてしまっていますから、両刀使いの理数系技術職、研究職など少数の例外を除けば、X-Y軸を入れ替えただけで混乱を生ずることがあり、理解を妨げます。右側のグラフをどう読みますか?慣習通りX軸を独立変数と見ていては表現内容を掴めないでしょう。
 そうした状況で特別の理由もないのになぜ逆軸表記なのでしょうか?福知山線尼崎事故の処理では(漏洩問題などはありましたが報告書の中味としては)水準の高い仕事をされた人達が短時日に変質するとは思わないのですが、原子力村同様の素人だまし、国民だましの意図が入り込んでなければよいのですが。サイト公開というのは専門家ではない一般国民にも読ませるということで、それがスキルに応じてストレートに理解できる表記というのは常に意識してもらいたいもの。

金属バネ、空気ばねには「ダンパー」が必要かも  <3>

台車
 今後の対策として、経年劣化のほとんどない金属バネに交換した場合、車体質量や台車枠質量との共振を吸収する振動吸収機構が必要とされることは当然で、従前の軸箱守ゴムで間に合うのかどうか、輸送コストとしては吸収できるのか、振動吸収特性は?といった検討が求められるでしょう。
 昔、台車をコイルばね化した当初は軸バネにもオイルダンパーを付した例が多くみられましたし、軸バネの中心に摩擦筒が入って振動吸収とか様々試行された微妙な部分でしょう。貨物の運転速度が電車並みに高速化すれば、電車と同水準の走行性能が求められるのは当然です。
 振動系の最適設定なので、「枕バネの上下剛性を柔らかくする」(JRF方針:事故調報告書)だけで解決できるかどうか?軸と車体の中間の台車枠の挙動を含めた一種2重振り子的振動制御としての検討をしないと解決できないかもしれません。振動系の制動の度合いにより(荷重に依らず)収束の速い「臨界制動状態」付近に設定できるかどうかの問題なので、必ずしも「枕バネの上下剛性を柔らかく」して解決できるとは限らないわけで、改良作業を直接担当する技術者達がそういってるとしたら、高速台車開発の理論とノーハウを持つ他のグループの手助けが必要な状況ではないでしょうか。開発費投資よりも旅客を巻き込んでの惨事のリスクの方が恐いのですから。
   See→振動解析例

[補足]
静的ストロークか?動的共振か?

 大昔、急勾配途中のスイッチバック駅だった中央線初狩駅で、新型のタンク車が脱線。復線作業をしてポイントを通過すると再び脱線。詳しく調べてみると、新型タンク車の車体の剛性が非常に高く、側受けの隙間が狭かったため、本線急勾配と駅配線の捻れを従前の車両なら低剛性のため車体台枠自体が捻れて線路に追従していたものが、円筒のタンク自体を台枠として剛性を増したため、線路の捻れに追従できなくなって脱線することが判明しました。(See→初狩駅タンク車脱線事故:永瀬研究室No.11-2記事)。この時の対応策としては、「側受けの隙間を広げるなど台車各部のクリアランスを調整して、車輪の浮きを抑えた」と漏れ伝わっています。詳細は部外には漏れて来ませんが低速領域の対応としては妥当なものでしょう。以降はその手の脱線事故発生は聞きません。

 それに対して、成田線事故は貨物列車の最高速度近くで起こっていますから、振れる力は速度の2乗に比例する訳で、質量とバネ定数による共振的振動をも考慮する必要があり、特にローリング方向の揺れは、アンチローリング機構がなければ、バネが柔らかいほど大きく揺れやすくなる可能性があります。従ってそれを単に「バネを柔らかくする」対応をして適切とは限りません。却って振幅を大きくする可能性もあり、実証的に進める必要があります。

 前ページss4後半にも昭和30年代の自動車業界がアナログコンピュータを使って振動解析を行い、乗り心地の改善を図っていたことは触れましたが、開発製造各社や、通産省の研究所などにも普通に導入されて電気試験所などは高性能機の開発まで手掛けており、東芝など電機業界各社が製品として販売していましたから、鉄道技術研究所がアナコンを持っていなかった可能性はほとんどありません。
 ゼロ戦の設計な携わり、急降下中の空中分解事故の解析をして「フラッター現象」だとして、尾翼昇降舵の剛性を増し、大幅な速度制限をした航空技術者たちが、敗戦後の航空機禁止措置で鉄道技研に入所して高速電車開発に携わっており、ゼロ戦のフラッターというのは単純化したシミュレーションでは2次振動解中の発散振動(右写真4)であり、彼等航空業界転入組の鉄道技研での功績は航空機開発時代と同根の開発設計をしたものです。そこに現物を作らなくてもさまざま試験できるシミュレータが市販されれば、安上がりで速やかな開発になるので、他の国家機関と横並びで利用するのは当然だったと思うのですが・・・・・・・鉄道方面だけ、従前の鉄道省役人たちに潰されていたでしょうか?

2012/07/07 20:30

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