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        カール  ツァイス

[108].Carl Zeissの名を惜しむ!
   国立天文台65cm旧主鏡の製造不良

  最近のわがWeb「日記」を読み返すと,本文なのか日記なのか渾然一体で区別がつかなくなっている.それは2005年が重大鉄道事故の輻輳し安全対策の弱点を晒した年であってネタ切れにならなかったことの反映でもあり,その結果,曲線速度照査ATS設置義務化と,最高速度100km/h以上の路線の終端駅でのATSを最高速度対応に改める通達が出されたが,赤信号現示対応の速度照査ATS義務化通達廃止は撤回されなかったというのが昨年の到達点であった.強突風対策の予測制御方式(Feed Forward Control)を導入できるかどうかが懸案だがJR東日本の頑なな姿勢と検察の執拗な人身御供処罰方針から実現は難しいかもしれない.確かに天気予報を外して運悪く事故になったからといってお縄にされたんじゃたまらない.今回たまには私的に日記らしい項も入れよう.

  今春は多摩川土手と都立野川公園と国立天文台の花見のハシゴで満開の桜を堪能というか,飲み仲間と日がな飲んだくれてきたのであるが,国立天文台見学と野川公園はなぜか露文系の学生さんたちと一緒だった.

  国立天文台見学には予約すればボランティアの説明員が付いてくれ,通常は平日のみ解放だが,内部関係者が招待すると土日も見学可能になる.流石祝祭日関係無しの研究機関だ.一時はシンナー非行の溜まり場となったとかで天文台構内は飲酒だけでなくピクニックも厳禁だ.構内には理科年表にも載る今は引退して博物館となった65cm望遠鏡のほか,20cm鏡や分光計など4つの望遠鏡があり,20cm鏡ではナマで太陽投影像を見せてもらった.太陽活動は静かな時季のようで黒点は小さな1群しか見られなかった.
  20cm望遠鏡の追従動力は何と錘で,円心ガバナーで定速を保っている.メカマニアにはたまらない光景だろう.65cm望遠鏡は直流モータ駆動で,鏡筒の角度に合わせて観測床が上下する構造になっている.(もっと大きい望遠鏡だと接眼部に人の乗るコクピットが付いている).ステッピング・モータやVVVFインバータなどの交流モータ制御技術の無かった時代に任意の速度を得るには直流モータ駆動というのは妥当だろう.
  3本の望遠鏡は共に光学機械の名門カールツァイス(Carl Zeiss)製望遠鏡でその由来は第1次世界大戦(1914〜1918)の戦勝国たる日本が敗戦国ドイツからせしめた戦時賠償の物納品でなかなかの曰く付きのものらしい.日英同盟の関係で参戦し青島(チンタオ)占領程度で本格的な実戦参加のないまま賠償金を得てしまい戦争は儲かるものとの誤った認識が後の悲劇的大戦突入に障壁を低くしてしまった.

アインシュタイン塔望遠鏡   「太陽系の道」には太陽から始まり土星までの説明板が軌道半径に比例した位置に建てられ軌道要素など諸元を解説していた.天王星、海王星、冥王星は最遠土星の2倍以上の位置であまりに遠すぎて省略されまとめて掲示.その南奥のアインシュタイン塔(分光望遠鏡)はアインシュタイン効果確認用に最も遅れた装置となった文化財.
  地球の解説板を見ていた学生さんが「自転周期23時間56分」という記載を見つけて「この4分は閏年に関係するんだろ」という.Booo〜!残念〜!正解は恒星基準の自転周期だから,太陽基準の自転周期の方が1日の公転角度(=360/365.25度)分長いための差ということ.
  今どき天文学なんて選択する高校生は居ないのかもしれない.近所の本屋に並ぶ受験参考書には地学が社会科の地理に並ぶ位置にあっても天文は無かった!地学が社会科扱いはヒド〜イ!昔は中学理科で「太陽日」,「恒星日」として違いを説明されていた様な気がする.中学理科第2分野で日周運動、年周運動の計算が載っているが受験用ナマ計算法では遊び半分のクイズにはならない.今は受験に関係ないどうでも良い知識として捨てられてしまったのだろうか.一応計算しておくと,長い方の太陽日が基準だから恒星日との差は k/(1+k) 日=1/(365.25+1)日≒3分55秒90だけ恒星日=自転周期が短いから23時間56分になるのだ.
  解説看板の記述で一般向けには「天体望遠鏡」と記述すべき個所は総て「赤道儀」となっていて何処にもその解説はない.何をもって「赤道儀」とするのかは露文の学生さんだけでなくフツーの叔父さん叔母さんには分からないだろうなぁ、と思いながらボランティア氏の解説を聞いていた.

20cm赤道儀   赤道儀の元々の意味は、天体望遠鏡の架台構造の一種で、直交する2可動軸のうちの1軸を地球自転軸に平行に設定して使う架台を言い、極軸周りに1周24時間の速度で回せば天体の静止像を観測できることから天体望遠鏡に必須の架台だったが,電波望遠鏡など超大型天体望遠鏡では全体が重すぎて赤道儀の実現が難しいため羅針盤やトランシットの座標と同じその地点の座標を示す「経緯台」に換算数値を加えて追従させる様にしている.考えてみれば天球のR,θ,φの極座標をR=∞無限大でのR,θ’,φ’の羅針盤極座標に換算して経緯台に与えるだけだから,我々一般人には手指と脳味噌が捻れ絡む思いの換算であっても天文マニアにとっては単純な極座標−極座標変換行列に過ぎないのだろう.
  この「赤道儀」が観測現場では転じて架台構造を含む望遠鏡設備全体を指すようだ.

  かっての中学校では年に1度くらい天体観測の課外授業があって,天体望遠鏡を市から1週間ほど借りてきて太陽黒点を投射したり,皆で順番に月のあばたや土星の輪をのぞくのだが,その設営作業は先ず架台と望遠鏡の相対目盛りをゼロに固定して副鏡で北極星を探して中心を合わせ,主鏡で更に精密に合わせたら架台を固定し望遠鏡鏡筒をフリーにして観測対象に向ける訳だ.だが,この操作をさせてもらえるのは理科クラブ部員などクラスに数人しかいないから調整済みの天体望遠鏡をのぞくだけだった人は「赤道儀」なんて到底記憶には残らない.高価なプラネタリウムも生徒自身の操作が全くないという同じ理由で単なる幻灯機に過ぎず金を掛ける割にはその内容はあまり印象には残らないだろう.理科準備室で「地上アダプター」なんて箱を見つけ出して接眼部に取り付けて近隣の無線送信所などを100倍視野の世界を楽しんだ悪戯生徒も若干居たことは確かだがそれは極めて少数だ.

  65cm主鏡設置以来の極秘事項があるとのこと.それは天文台の主望遠鏡は重大欠陥があって一度も正式観測に使われたことがないのだそうだ.欠陥は2つ.色収差が焦点距離にして10数cmに及んで使い物にならないことと,追従中に画像が飛ぶこと.実際の観測に使ったのは平行して設置されている35cm径の副鏡だけであり,65cm主鏡は新人を鍛えるためにしか使われていなかったのだそうだ.理科年表記載の数値は本当は35cm副鏡観測に拠る数値だったのだ!
  当時の敗戦ドイツが東洋の後進国黄色人種の日本を馬鹿にしていい加減な製品を送ったとする説が強力だそうだが,レンズの組立を間違えたのではという推測もあり,欠陥品を知らずに検収を挙げてしまった東京天文台の歴代の極秘事項になっている.ハワイに設置したスバル望遠鏡のリアルタイム画像を常に観測できて,とうに現役を引退した今は天文学の研究者たちにとっては公然の秘密だった第1次世界大戦賠償品の検収ミスと歴代続けられた性能不良隠蔽もとうに時効で笑い話だが,歴史的文化財として設計品質を実現する調整をしてはどうだろう.現代は光学製品といえばナイコン(Nikon)にCanonかもしれないが,このままでは往年の世界的なブランドとしてのカールツァイスの名が惜しまれるではないか.(同時に納入された他の2本の天体望遠鏡はその名に恥じないしっかりしたものだった)

  戦闘に参加もしなかった東洋の蛮国にアーリア民族の誇る技術の粋は渡せない!と主製品には組立不良の製品を渡すサボタージュを試み,煽て上げて枢軸にはして第2次大戦に参戦させたが本心は黄色人種は劣等民族だと蔑んでいたことの現れだという切り口も丁度現代に重なり,最新兵器を実戦に使ってみたくてしょうがない兵器ヲタが防衛庁長官に君臨し,自国憲法に逆らってブッシュらの言いなりに海外派兵を強行し,また保守政党を遙かに凌ぐ好戦派が先日まで最大野党党首だった危うい時代にふさわしい切り口なのかも知れないが,その経営理念が社会主義的だとしてナチスに睨まれた光学機械の名門カールツァイス財団がその名を惜しんで納入時からの性能不良文化財の調整をする方が夢があって楽しいだろう.
  砂漠で故障したVW(フォルクスワーゲン)をヘリコプターで救援してエンジン交換で復旧させて,探検家からの修理費の支払い問い合わせに対し「当社の車はそんな危ない故障は起こしません」ととぼけて修理費を受け取らなかった話をリーダーズダイジェスト誌記事を通じて全世界にばらまいた壮大な’やらせ宣伝’の故事に倣い,「カールツァイスの天体望遠鏡に納入不良品はありません」とやってはどうだろう.やらせ宣伝もそれくらい壮大にやられると大いに楽しめる.量産品のリコールとは違ってどのマスコミも食いつく著名な文化遺産たった1品の補修でどう転んでも大した金額にはならない.FF暖房機リコール問題のイメージチェンジを図りたい松下には参加したいイヴェントになるだろうが,同社の売りのライカは関連性のあるドイツ製とは言えカールツァイスではないから主導にはなれない.やはりイヴェントの勧進元はデジカメBODYにCarl Zeissを刻印しているSONYだろう.源設計資料は見つからないのか?あるいは個々のレンズデータから組み合わせ法を解明して正しい組立法を解き明かせないのだろうか?
  この望遠鏡の動力源である電動直流発電機は旧式のHitachi製(創業 1910年(明治43年)設立 1920年(大正9年)2月1日)と見まごうばかりの形であり,日本の工業製品が欧米のデッドコピーから始まったことを端的に示すものとなっている.今中国が外国製品のデッドコピー工業製品で伸しているのと同じことを日本もずっとしてきたのだ.この程度のモータと直流発電機なら材料さえ揃えば工高レベルの技術に毛が生えた程度で修理可能で,松下やhitachiなら簡単だろう.かえって機械的寸法が合うかどうか分からない軸受けあたりが難物かもしれない.整流子モータの整備に慣れた三鷹電車区あたりがお隣のよしみで協力したって良い.
  カールツァイスの天体望遠鏡の精度調整に限れば同一仕様のスイッチングレギュレータ提供でも可.安上がりを採るか新人の実務教育を採るかだ.電機子巻き線法も知らずにFDドライブ用モータを設計して量産して売った話もあり,幸い製品仕様に不足はなかったとはいえ作る上での基礎教育は欠かせないのだ.
  カールツァイスの名で自社製デジカメ差別化を試みるSONYは本年(2006年)1月にカールツァイスと技術交流のあったコニカ・ミノルタのデジタル1眼カメラ部門を引き受けたことでもありこの文化財修復の勧進元:スポンサーとなってカールツァイス財団を御輿にして望遠鏡本来の設計性能を出させるプロジェクトを引き受けても充分おつりは来てバチは当たらない.戸建ての家1軒分の値段だったライカで商売する松下電器も,当初の自社製品のお手本にした可能性のある世界のhitachiモートルも修復プロジェクトに加わって良い.ただ直裁に儲けるばかりが会社ではないだろう.実観測に全く使われていない引退望遠鏡の修復だから直接天文学に資するものではないが,文化財として大切にして天文学の裾野を拡げるのは意義あることだ.企画提案料は激安にしておく(笑

  ヴェトナム戦争での相模補給廠は全駐労の拠点の一つとして侵略戦争反対闘争を繰り広げていたが,戦地の米兵たちは相模補給廠修の戦車を奪い合った.それは整備・修理の質が高く戦闘中に故障して解放戦線の餌食になるようなことがほとんど無かったからだ.不当な侵略戦争には断固反対だが自分たちの仕事には誇りを持つ労働者・職人魂の賜物だった.戦勝国大日本帝国に戦時賠償製品を供給するカールツァイスの職人・技術者たちの気持ちは果たしてどうだったのだろう.85年も昔の話でもう尋ねられる人も生存して居なくなってしまったろうが.

  結局はまたも日記的ではなくなってしまったか!
2006/04/11 23:00
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