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[101]. 「信号保安・鉄道通信入門」を読んで

  鉄道業の社員教育テキストとして編纂された日本鉄道電気技術協会刊、電気概論シリーズの編集委員長菱沼好章氏が「信号保安・鉄道通信入門」(中央書院'88/03初版 '91/03改訂\1,900.鉄道業務セミナー#2)を書いていることを知り、見ず転でAmazonに発注を掛けたが、ざっと読んでみてヲタ向きにもかなり興味深い本だ.交流区間の83Hz〜100Hz信号電源がMG(電動発電機:写真付)に拠っているとか、分周器とか、各種インターロック=連動装置の図解、連動図表の解説、通常の信号には使われない開電路式軌道回路の利用法など、他ではお目に掛かれないヲタ好みの内容満載である.基本評価は興味深い良書.即時絶版を求めたい様な#95#81とは逆方向評価で全く比較しようがない.

  その前提で敢えて難を言えば、氏が通信系の出身の模様で(=内容のバランス&「可聴周波AFの範囲が250Hz〜3,500Hz」(P104)は電話屋さん!可聴16Hz〜20kHzを基準に分野ごとに範囲定義だろう)、普通の撚り線の電話線に24チャンネルも多重化する超いにしえのPCM近距離回線の話(1965年〜頃の通信トレンディー:国鉄は'66年着手'70年導入で、通信本職電電公社にそれほど遅れを取っていない!)とか既に日本テレコム所有となった電話交換網など、鉄道での利用にも触れた通信ヲタ向けの部分があるとはいえ、信通系本職以外まず読まない章がかなりの分量を占めて読み飛ばす人の方が多そうなことと、ATSの解説が、全体像ではなく、個々の回路・要素の動作に留まって、安全装置としての基本原理の記述がなく,ATS-P照査方式の本質的に優れた点さえ記述していないことが挙げられる.
  ATS-Pは巷間誤り伝わる様な「デジタル」の「トランスポンダ」利用だから優れているのではなく、停止予定点基準で限界速度を逆算して冒進のない制御をする」ことが原理的に優れていて、衝突危険度に直結する(赤信号)冒進距離比でいえば−Sx:私鉄通達:−P=36〜42:1:0 という圧倒的優位があることで、その基準に照らしてATS-Psも優れているのだが、間接的にでも現行ATS-Sx批判を避けたものか述べていないし,改訂が'91/03だから残念ながらATS-SNまでしか触れて居らず、'90年開発の-ST以下'91年開発-Sw以降と-Psは記述がない.その辺は昨年'05/08の定年で著者に時間が出来た処で3訂版に期待したい.(納入メーカー多数の広告付きの個人著作というのは正直地位利用的抵抗感があるが,叙述内容の評価は別)

  この新しいATSの部分は著者菱沼氏が編集委員長を務めた信号概論の7.「ATS・ATC」(日本鉄道電気技術協会03-3861-8678刊\3,000.)にかなり詳しく述べられていて興味があればお勧めだが、残念ながらやはり総論的原理的記載が無く、なぜATS-Pが優れているかを万人に示すものになってない.
  巻末の菱沼氏の略歴をみると一貫して信号通信電気系幹部社員で、前出鉄道技系社員教育テキスト電気概論シリーズの編集委員長に就任されたが、その方の'88/03〜'91/03刊行著書での記述がこれでは極めて不十分だ.ATS-P方式の速度照査は信通技術系には大いに支持されたからD-ATC/DS-ATCに採り入れられたし、換装で線路容量が増えることも理解され、総武横須賀線東京トンネルや山手貨物線(埼京線)のATCを老朽化としてATS-Pに換装してその前後区間と統一を図ったが、なかなかそれを理解しきれない社内世論としてはATS-P換装が金食い虫などとして、JR東日本でさえかなりの批判を受けていた様だ.
  東中野追突事故のマスコミ対応を最後に引き取った山之内秀一郎JR東日本当時副社長(=前会長)らはATS-Pの優秀性を理解し不安定で問題のあったATS-B区間を中心に換装計画を策定してまず新規開業('88/12/01)の京葉線に導入したがその直後の東中野事故('88/12/05)対応として換装前倒し区間拡大を公約した.この時の教育PR不足の弱点がATS-P普及にブレーキを掛けてしまい、あんな高価なもの!という強い非難をなかなか乗り越えられず、お膝元のJR東日本と近畿圏でもATS-B区間及びその周辺地域以外には全く広げられなかった.しかし昨年続いた惨事をみれば、分割民営で廃止した私鉄ATS通達復活は必然で、国交省が虚偽答弁までしてATS-Sxを庇う姿勢は大変理解に苦しむ.北九州や名古屋周辺はATS-P/-Ps化するだけの輸送量はあるだろう.

(どちらの本も、専門家ではないヲタに読み込めないであろう部分がかなりあって当然で、そこは割り切って拾い読みして戴きたい.特に後者は社員教育用=プロ用だから各人の理工系度、専門度がモロに出るだろうが、概要を述べた章立て毎の総論解説部は誰にも読めるはず.もう少ししっかり書いて欲しい章もあるが.)
2006/02/25 00:10
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