曲線過速度防止装置設置基準 (#24)

急曲線に進入する際の速度制限に関する対策について
 〜速度超過防止用ATS等の緊急整備〜

平成17年5月27日
<問い合わせ先>
鉄道局施設課
(内線40802、40803、40862)
TEL:03-5253-8111(代表)
  第5回福知山線事故対策本部(5月9日開催)において、鉄道事業者に義務付けることを決定した急曲線に進入する際の速度制限に関する対策について、整備箇所、整備期間など整備に関する考え方を別添のとおりまとめましたのでお知らせします。


(別添)
速度超過防止用ATS等の緊急整備について

  曲線部においては、制限速度を遵守することにより安全を確保することが大前提であるが、今回の事故に鑑み、曲線部において速度超過を想定した対策を以下のとおり緊急に図ることとする。

速度超過防止用ATS等の緊急整備の考え方
(整備箇所)
直線部の制限速度で曲線部に進入した場合を想定し、対策を講じる必要がある箇所

直線部の制限速度 > 曲線部の転覆脱線に至る速度×0.9
(理論値)

(整備期間)
ピーク1時間あたり 運転本数10本以上  → 2年間で整備 (平成18年度末)
      〃    運転本数10本未満  → 5年間で整備 (平成21年度末)

整備計画策定の考え方
  鉄道事業者は6月30日までに曲線の速度超過を防止するために速度超過防止用ATS等に関する整備計画を策定の上、国土交通省に提出する。(本日付けで鉄道局から各鉄道事業者あてに通達)

整備計画の策定にあたっては、上記1.の考え方に基づき、鉄道事業者毎に車両、曲線の条件から対策を講じる必要がある箇所を精査する。

その他
  曲線部以外で速度制限を設けている箇所(分岐器部、下り急こう配部等)への速度超過防止用ATS等の設置の義務化についても引き続き検討を行う。


【参考】

  例えば次の前提に基づき、速度超過防止用ATS等を設置する必要のある箇所の条件を試算すると以下のとおり。
  また、この試算された条件をあてはめた場合に該当する曲線の箇所数は別紙のとおりとなる。

〈前提〉
○ 車両:
  (軌間)
JR西日本1,067mm
近鉄 1,435mm
○ 乗車率:100%(定員乗車)
※ 今回一つの例として設定したもの

〈試算された条件〉
軌間1,067mmの場合(JR、一部の民鉄)
曲線半径速度差
R=400m未満20 以上km/h
R=400m以上30 以上km/h
軌間1,435mmの場合(一部の民鉄)
曲線半径速度差
R=200m未満30 以上km/h
R=200m以上40 以上km/h
※ 速度差:曲線の制限速度と手前の直線の制限速度との差
  なお車両乗車率の前提が変われば条件である曲線半径速度差も変わることから、6月30日までに提出される整備計画における箇所数は、変動する見込み。


試算された条件をあてはめた場合の曲線の箇所数

ピーク1時間あたり
運転本数
10本以上 10本未満
J R(6社)7401,3592,099 (134)
大手民鉄(13社)10544149 (21)
中小民鉄(29社)9143 152 (0)
合 計854 1,546 2,400 (155)
注1 計欄の( )内は、速度制限用ATS既設置箇所数を外数で示す。
注2 全線にATCを設置している鉄道事業者を除く。

《JRの内訳》

ピーク1時間あたり
運転本数
10本以上 10本未満
北海道旅客鉄道11 174 185
東日本旅客鉄道617 642 1,259 (109)
東海旅客鉄道1 69 70 (8)
西日本旅客鉄道77 157 234 (17)
四国旅客鉄道0 139 139
九州旅客鉄道34 178 212
日本貨物鉄道0 0 0
合 計740 1,359 2,099 (134)
注 計欄の( )内は、速度制限用ATS既設置箇所数を外数で示す。

《大手民鉄の内訳》

ピーク1時間あたり
運転本数
10本以上 10本未満
東武鉄道 8 2634
西武鉄道 20 626
京成電鉄 6 0 6
京王電鉄 1 0 1
小田急電鉄 18 018
東京急行電鉄 0 0 0
京浜急行電鉄 4 0 4 (2)
相模鉄道 1 0 1
東京都交通局 0 0 0
名古屋鉄道 33 538 (8)
近畿日本鉄道 3 2 5 (11)
南海電気鉄道 9 413
京阪電気鉄道 1 0 1
阪急電鉄 1 0 1
阪神電鉄 0 1 1
西日本鉄道 0 0 0
合 計 105 44149 (21)
注 計欄の( )内は、速度制限用ATS既設置箇所数を外数で示す。

《中小民鉄の内訳》

  ピーク1時間あたり
運転本数
10本以上 10本未満
弘南鉄道 0 2 2
IGRいわて銀河鉄道010 10
由利高原鉄道 0 2 2
山形鉄道 0 1 1
阿武隈急行 0 1 1
会津鉄道 0 4 4
のと鉄道 0 2 2
しなの鉄道 0 2 2
上田交通 0 5 5
長野電鉄 1 2 3
富山地方鉄道 128 29
北陸鉄道 0 1 1
関東鉄道 1 1 2
真岡鐡道 0 18 18
上信電鉄 0 1 1
わたらせ渓谷鐵道 0 9 9
北総鉄道 1 0 1
東京臨海高速鉄道 1 0 1
富士急行 0 4 4
えちぜん鉄道 0 3 3
伊豆急行 0 1 1
名古屋臨海高速 2 0 2
近江鉄道 2 2 4
信楽高原鐵道 017 17
神戸電鉄 0 1 1
北近畿タンゴ鉄道 0 4 4
智頭急行 0 4 4
土佐くろしお鉄道 012 12
肥薩おれんじ鉄道 0 6 6
合 計 9143 152
注 計欄の( )内は、速度制限用ATS既設置箇所数を外数で示す。



転倒限界判別式      <D>

  国交省が曲線過速度防止装置設置基準制定に用いた転倒限界判別式が判りました。
國枝の式」と呼ばれる振動項と風圧転倒項を含んでいる判別式のため、安全余裕を0.9に採れた様ですが、従前の速度制限算式に比べて限界が高速になる訳ではありません。式の第1項はカント面での安全比率の逆数ですから、他の2項をゼロとすれば従前の転覆限界関係式で1以上の値で転倒します。正確な計算ができることはどんな条件でもリスクが等しい過不足のない基準を定める上で有用です。
  安全装置というと操作の自由度を制限して安全保障領域を作るため性能を落としてオペレータと衝突することが多く、不信から時には外されて事故に到るので、実態に即した正確な計算でギリギリの安全限界で設定したいものですが、今回国交省が発表した基準は400Rを境に20km/h〜30km/h差以上の場合に設置を義務付けるというラフな決め方をしました。
  しかし良く読むと「参考」「たとえば」となっており、少しでも支出を抑えたい事業者は函数形のままで判定できる余地がある様に読み取れます。1箇所減らして100万円弱節約になるのですから設置箇所の多い社は函数方式になるでしょう。現場に演算ソフトを配って全カーブにつき詳細に判定計算をする価値があります。
  従前の計算法は安全比率を大きく採って、その中に風の影響などを含ませる手法を採っている訳で、その計算の場合は仮想の転覆限界速度の0.7強に当たりますから、その差が主には風の影響ということです。従前の設置自主基準が東海で速度差40km/h以上だったものを、今回の国交省試算では20km/h〜30km/h以上で設置する基準になっており、その値なら尼崎事故発生条件は十分満たすし、切り通しなど風圧の影響の極少ない場所では設置無用となる訳です。風圧(風速)の予想というのは難しい面もありますが、京葉線や東京地下鉄東西線の様な周囲に障害物のない吹き曝しの高架線は厳しい基準になるということです。
(パラメター設定値は上述以外は不明)



速度超過防止用ATS等の緊急整備について(プレスリリース)
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/08/080527_2_.html
参考:
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/08/080527_2/01.pdf
別紙 
試算された条件をあてはめた場合の曲線の個所数:
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/08/080527_2/02.pdf
添付図1 
曲線の個所数(図):
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/08/080527_2/03.pdf
添付図2 
ATSによる曲線速度超過対策:
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/08/080527_2/04.pdf

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Last update: 2005/06/07      (作成)