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「回生失効」絡みかも?プリウスブレーキ不具合
回生制動とABSは教育訓練教程化を要すのでは?

トヨタ,不適切なABS制御プログラム
  によって起こる二つの事象を説明
  ---「制動遅れ」と「利き不良」

   newsing close2010/02/10 18:27近岡裕=日経ものづくり

 トヨタ自動車は2010年2月9日に開いた会見で,同社取締役副社長の佐々木眞一氏は,リコールを決定した新型「プリウス」など4車種に搭載したABS制御プログラムの不具合について詳細を説明した(図)。


<新型プリウスなどに搭載した
ABS制御プログラムの不具合により,想定される二つの事象>


 不具合の部位は,ABSを制御するコンピュータの中に入っているプログラム。これにより,対象となった車種で起きる可能性がある不具合として,「最も典型的な事象」をトヨタ自動車は二つ挙げた。場面は,クルマが時速20km/hの低速で信号機にさしかかったところ。ドライバーが赤信号を認識し,12.3m離れたその信号機の手前で止まろうとする(目標停止距離は12.3m)。ところが,途中に路面の凍結などにより,1m程度の大きさ(長さ)の氷盤を通過しなければならないという場面だ。ドライバーがブレーキペダルを踏む力(踏力)は30N(約3kgf)である。

 このときの時速(車速)と制動距離の関係を示したのがグラフだ。縦軸に車速(時速)を,横軸に制動距離をとっている。クルマは時速20km/hからブレーキによって減速し,この氷盤の上を通るときに一瞬滑る。するとABSが作動し,ブレーキシステムは通常のブレーキモードからABS作動モードに変化する。このABS作動モードに入った時の「油圧の差」が,制動距離の差に現れる。

 こうした場面において,ドライバーがブレーキペダルの踏力を30Nで一定に保った場合に想定される事象の一つが(1)「制動遅れ」,すなわちABSが作動する時間が通常よりも長くなることだ。新型プリウスなどでは,油圧が回復するまでに0.46秒の時間がかかる。これに対し,通常のABSを搭載したクルマでは0.4秒で済む。この0.06秒の差がドライバーに「空走感」を与えたようだ。「お客様の敏感な感覚に影響を与え,少しブレーキの利きが遅れる,というご指摘に結び付いたと思われる」(佐々木氏)。

 ただし,この制動遅れが生じても,ブレーキペダルを踏み増せば目標停止地点にクルマを止めることができる。通常のABSを搭載したクルマでは10N(約1kgf)踏み増し,合計40Nの踏力をブレーキペダルに与えれば,信号機の手前で止まる。これに対し,新型プリウスなどでは,0.06秒の遅れを取り戻すために,15N(約1.5kgf)の踏み増し力が必要となる。すなわち,合計45N(約4.5kgf)の踏力をブレーキペダルに与えなければならない。

 トヨタ自動車が挙げたもう一つの事象は,(2)「利き不良」だ。これは,ブレーキペダルを踏み込まず,ドライバーが踏力を30Nのままにし続けたら,どこでクルマが止まるかを表すものである。目標停止距離の12.3mに対し,通常のABSを搭載したクルマでは0.6m延びて12.9mの所で止まる。これに対し,新型プリウスなどは通常のABSを搭載したクルマよりもさらに0.7m延びた13.6mの所で止まることになる。

 対策は,ABSの制御プログラムを通常のABSと全く同じ作動となるように書き換える。作業時間は約40分という。

 佐々木氏は新型プリウスなどのドライバーに向けて,次のように注意を促した。「雪道や凍結路における低速走行で,かつ緩いブレーキでの現象とはいえ,大変申し訳ないのですが,ブレーキペダルをしっかり踏んでいただきたい。そうすれば,確実にブレーキが利くということをご理解いただくとともに,ABSの作動は雪道や滑りやすい路面でブレーキペダルを強めに踏んでも,決して車輪のロックなどによってスピンなどはしないようにする装置ですから,安心して強めのブレーキを掛けていただくことを,切にお願い申し上げる」。
 上記トヨタの説明図は、時間軸表記と距離表記を混同させて描いていて、図によって内容の理解を求めるつもりなら、下記2葉の形に分ける必要があります。
距離軸図&時間軸図

 ハイブリッド車プリウスのブレーキ絡みの不具合が大きく問題にされ、トヨタはその原因として滑走後のABS応答時間が微妙に長いとか、その後の加重踏み込み力が他車よりも大きいため運転者に生ずる感覚の違いで、現製品は改修済みソフトで出荷中と説明して、制御ソフト乗せ換えのリコールを発表しました。

 解説図では「1mの路面結氷」を想定して、プリウスのABSが働いての回復時間0.46秒が、他車種のABS回復時間0.40秒より長いことと、同位置に止めるための必要追加踏力が、他車で+10Nに対しプリウスでは+15N必要、停止距離の延びで他車が0.6mに対しプリウスが1.3mであることが、ブレーキが効かないと感じる原因だと説明しました。(右枠内 =日経BP記事)

 しかしながら、わずかこれだけの差で、問題とされている「衝突の恐怖を感じる」様な事態になるのかどうか、かなり疑問を感じます。追及されている発生例で、氷結、降雪、湿潤という条件は聞きませんし、制動距離1mの差で「恐怖を感じる」ほど車間を詰めた運転をしていたのかどうか、「崖下に落ちる寸前」とか「高速道路でブレーキを踏むと1秒ぐらい効かないことがある」というのとかなり噛み合わないものを感じます。

ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)とは

 そもそもABS(アンチロック・ブレーキ・システム)というのは、滑走を始めてグリップを失い制動力が無くなった車輪踏面を再び道路に粘着させて制動力を回復させる装置で、当初は航空機の着陸制動を確実にしてオーバーラン事故を防ぐために開発されたものです。これを自動車用の横滑り防止装置として開発してABSとなりました。
 自動車運転教則本の雪道運転に述べている「ポンピングブレーキ」というのは滑走を始めた車輪を再び路面に粘着させるために一瞬ブレーキを止めるのを繰り返す操作で、それを、滑走を検出したら自動的に行うものがABS装置です。

 高速になると路面と車輪の間に水幕ができて浮かしてしまい制動力がゼロになる「ハイドロプレーニング現象」を起こしますので、その抑制・回避にタイヤ空気圧を上げ、水が逃げやすいタイヤ溝パターンを刻みます。溝の磨り減った古いタイヤが危険だと云われるのは高速でこのハイドロプレーニング現象を起こしてコントロールを失い大事故になりやすいからです。ABSでもハイドロプレーニングには充分対応しきれません。
   (See→鈴鹿サーキット直線部で急にスリップしクラッシュ[ 動画 6'11"]ハイドロプレーニングか?)

 鉄道では現在北海道の雪中を130km/h〜140km/hの高速で走る特急ディーゼル車を皮切りに交流モータを使う新型車を中心に「再粘着制御」が取り入れられており、鉄道総研が開発した北海道特急用のマルチモードブレーキでは滑走検知制動緩解後の再粘着検出に回転速度の微分値が正に転じたタイミングを再粘着開始と判断し、制動再開準備を始めて粘着と同時に制動を再開するという方式で制動力を維持して降雪中の最高速度140km/h運転を実現させています。(当該車は付随車の前後両台車に速度計ケーブルを設置しています。在来線は運輸省規則で600m以内の制動距離という制限により減速度で最高速度が規定されるため高速化にはブレーキ性能が鍵になります)。
 なお新幹線では開業当初から似て非なる「滑走防止装置」が0系車両に全面採用されて、滑走を検出すると一定時間ブレーキを緩めて再粘着を待って再粘着を促して固着滑走による踏面フラット発生を防止していましたが、滑走していない側まで一律にブレーキを緩めていたそうで、何度も過走を繰り返して岐阜羽島駅では停止目標を800mも行き過ぎる過走事故を起こしています。当初これを速度計軸のみの滑走による過走事故と捉え、1軸だけ制動力を半減、滑走検出で制動カットとしましたが、鳥飼電車基地本線合流部で停止信号を越えて本線に突っ込んで脱線し衝突寸前となった「新幹線鳥飼事故」では内部調査で「油カス付着」を原因として絶対信号直後に設置している絶対停止信号03区間48mを2m延長して「解決」としましたが、その後も過走事故は収まらず名古屋駅などで発生しました。新型車両では16連列車中間8〜9両目を速度計軸に選び、その車両の制動力を70%に落とし、低速側軸を滑走軸とみなしてブレーキを弱めて再粘着を図る方式に改められています。その方式変更によりようやく保守の都合であるフラット防止装置から、安全確保の再粘着制御装置に昇格しています。現在、問題の0系100系は寿命も尽きてほとんど廃車になっています。このフラット防止装置は在来線では通勤電車の103系試作車と201系試作車に採用されましたが共に量産時には総て撤去されており、在来線にはフラット防止装置の危険性を予測できる人達が居たのでしょうか。近年のVVVFインバータ制御による交流モータ車導入後になってようやく台車単位にブレーキ制御する再粘着制御を導入するようになりました。(尼崎事故の207系はインバータ制御車ですが再粘着制御はまだ採用していません)。

 従ってABSは滑走を緩和することは出来ても、乾燥路面の制動力にもどすことは不可能で、ABSが頻繁に働くような悪い走行条件では特に慎重に抑えた運転が必要だということですし、ABSを有効にするにはせめて高速走行にはタイヤ空気圧を高めにし、溝の磨り減ったタイヤは使わないことです。
 そういう限界走行だった場合にはトヨタが説明するような「更に踏み込めばブレーキが効く」ということはありません。ABSで限界の減速度を求めて制動しているはずですから、踏み込んで更に効くのなら逆にABSが限界の制動力では動作していないことになります。この辺にトヨタの説明をそのまま受け容れられない戸惑いを生じます。きっと別の原因が隠されている!と。

回生失効が付きものの電力回生制動がプリウスの特徴

 ハイブリッド車プリウスのブレーキが、同じくABSを搭載した他車種と決定的に違うのは、総合効率改善に「電力回生制動」を採用しており、これが低速になって効かなくなる「回生失効」を起こすのを自動切換でメカ式ブレーキに切り換えていて、この切換タイミング次第で一定の制動力変動は起こり、それがABS制御に絡んでいる可能性はあるのですが、トヨタの解説では全く触れられていません。トヨタの説明図では時間軸と距離軸を混同して表記しており、こういうデタラメな解説図は実際の検討に使われたものではありませんから特に眉に唾を付けて慎重に読み取る必要があります。
 [参照:右図& →●距離軸図−時間軸図比較→●列車制動衝突解析法

回生制動力  仮に18km/hで回生失効が起こり、メカブレーキが効くまで0.46秒間のノーブレーキが生じるとその間に2.3m空走(=18/3.6×0.46)しますが、その理由を知らないとかなり怖いでしょう。更に空走分の補償で自動的に強いブレーキが掛かって滑走しABSが働くと再び空走して踏んだり蹴ったりで前車に恐怖の大接近をしてリコール必須。
 右図は回生制動力の最大値を辿った図で、制御次第で平坦化可能ですが、回生失効時のメカ式ブレーキへの切換ショックだけは大小は別として避けられません。
 鉄道車両でも電気制動失効や、この回生失効によるブレーキモードの切換で昔からショックはあり、初期のE217系(横須賀−総武快速新型電車)などは「体が吹っ飛ぶようなショック」を感じており、停止位置オーバーの直接の原因になっています。JR西日本の車両にも同様に回生失効問題があります。
 高効率化には運動エネルギーを電力に変換する回生制動採用は必須で、回生失効の前にメカ式ブレーキを動作させて、それに合わせて回生制動を絞ると、繋がりはスムーズに出来てもその分効率低下を招き、回生失効を検出してからメカブレーキを働かせると一瞬、ブレーキが無くなって急に回復する±往復のGショックを受けます。
 更に、回生失効切換の前後に滑走が始まり、ABSが働いて再粘着後にブレーキを再開する場合に、回復させるべきブレーキを再開前に切り換えられているかどうか。ABSで不動作中の回生失効検出は困難ですから、一旦制動復帰してから回生失効を検出するのでは、その分更に遅れる可能性があります。これらの現象を電車のブレーキ制御で言えば「遅れ込め制御方式での電制失効直後の空制切換タイミング」の問題として乗り心地面と、停止直前の制動力喪失による停止位置過走問題として改良に苦労してきた現象です。「込め」とはブレーキシリンダーに制動圧搾空気を込めること、「遅れ込め」というのは、電制の効くうちは空制を使わず、電制失効でブレーキハンドル操作より遅れてエアを込めて制動を継続することをいいます。

※補足:「減速は尻でみろ!」

 電車運転士の養成で「減速はブレーキハンドルじゃなく、尻でみろ!」と言われるそうです。線路条件が雨や雪で大きく変わるので、同じブレーキハンドル位置なのに減速度が違うことが間々あるから、体感の減速Gで修正しながらブレーキ操作しろということです。
 これをプリウス問題に引き写せば「ブレーキ踏力一定で制動操作をしてはいけない。体感減速度で踏力を調整せよ」ということです。他車でもこれは共通ですから、それに絡むハイブリッド車プリウスでのみ起こる制動能力の外乱要因としては回生失効が浮かび上がってくる訳で、踏力を基準に制動力を考えている運転者はモロにその烈しい外乱の影響を受けてしまいます。
 トヨタの説明でも「弱いブレーキ」を強調していますから、回生失効による一時的なブレーキ抜けに即応してブレーキを踏み込むか、最初からメカ式ブレーキ併用となる強めのブレーキを使って、省エネルギーを若干犠牲にしても回生失効の影響を減殺するか、あるいは、回生失効がエコカーの特性と割り切って、車間距離を空走距離2〜3m分余分に取って運転せよ、ということになります。納得できない曖昧な理由でただ踏み込めと言われても釈然とせず不安と不審を深める方が多いでしょう。この辺の原理的弱点発生の説明抜きに動作定数を若干いじっても、クレームは収束しないでしょう。

回生失効とABS特性を運転訓練教程化

 従って回生制動を採用する車種での特別の注意として、回生失効速度(と失効から油圧ブレーキに切り換える時間0.xx秒)を明示し、ABSを含めて教育訓練教程化して、出来れば実体験させることが必要なのだと思います。全く教わっていない想定外の挙動に運転者が混乱するのは当然でしょう。
 「高速道路でのブレーキの効きが1秒遅れる」という現象が発生するのは「路面限界を超えたハードな運転をしていてABSに補助され横滑りの危険性から救済された」可能性があり、その場合はABSに問題があるのではなく、運転者が路面条件の危険に気付かず漫然と運転していてABSに救われたということです。
 どちらもシミュレータなどに拠る疑似体験教習を勧める事例ではないでしょうか。特に回生失効現象は「問題ない」のではなく、プリウス系特有の特性としてメーカー側が強くアピールして、ショックがJR電車並に烈しい場合にはシミュレータを準備してユーザーに体験させる必要があります。この点は本当に解決しているのでしょうか?鉄道車両の実現水準からしてプリウスにも切換ショックが残っている可能性はかなりあると思うのですが・・・・・ここんとこハリアーばかりで、まだ現物プリウスに乗ったことはありませんが(w。

2010/02/13 23:55

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