74-衆-本会議-4号 昭和49年12月17日

○金子満広君 私は、日本共産党・革新共同を代表して、三木内閣の政治姿勢と内外政策に対して、総理並びに関係閣僚に質問をいたします。  金権、腐敗政治に対する国民のきびしい追及の中で退陣した田中総理にかわって、新しく登場した三木総理が、はたして、就任前公言してきた事柄を、真に、ことばどおり実行するのかどうか、いま国民は、その一つ一つの言動をきびしく注目しているのであります。私は国民の注視の中で質問をいたしますので、明確に答弁をしていただきたいと思います。

 最後に私は、民主主義の重要な課題の一つとして、国民生活から無法な暴力を一掃する政府の責任について質問をいたします。  すでに政府当局も一定の範囲内で承知していることと思いますが、去る十一月二十二日、兵庫県養父郡八鹿町で、法治国日本では絶対に許されてはならない集団暴行事件が発生をいたしました。
 県立八鹿高校教師約七十名が、部落解放同盟朝田派数百名によって白昼襲撃をされ、十数時間にわたる残虐な集団リンチを受け、瀕死の重傷を含め二十九名が入院し、数十名が負傷したのであります。しかも、これは八鹿町だけの孤立した事件ではなくて、この集団は但馬地方一帯で、糾弾という名のもとにさまざまな脅迫と暴力の行動を行なっており、少なからぬ地域で住民は自由にものが言えない状態さえ生まれているのであります。これは明らかに国政上の重大問題であります。  八鹿高校集団リンチ事件についていえば、そのリンチの残忍さは、十一月二十五日、兵庫県議会警察常任委員会で県警山田警備部長自身が、この糾弾は、牛乳びんで頭をなぐる、髪をつかみ壁、床に頭を激しくぶっつけた、たばこの火を顔、首などに押しつける、ピンでからだを刺す、割りばしで指を詰め、ねじった、水をぶっかける等を行ない、失神した者もあったと述べていることでも、その一端がうかがえるのであります。
 わが党国会議員団の調査によれば、このリンチで肋骨、腰椎、肩肝骨など骨折した者だけでも十三人に及び、女教師まで裸にして水をかけるなど、破廉恥で野蛮な行動が続きました。
 ところが、この集団リンチを組織した解同朝田・丸尾派はもちろん、一部の政党は、これほど多数の犠牲を出したこの事件について、何ら暴力はなかったという宣伝をしています。警察当局はすでに十一名を逮捕していますが、今日までの調査で、どのような事態が起こっていたのか、その点をここで国家公安委員長である自治大臣から説明をしていただきたいと思います。

 さらに重大なことは、この暴力事件が教育行政や地方自治体の責任ある地位にある者の支持と激励のもとに行なわれてきたという事実であります。兵庫県教育委員会は、次長、参事を数日前から派遣し、この集団暴力に協力、加担し、校長とともに学校をそのリンチの場に提供しました。また、この暴力集団の使っている二十台の解放車というマイクロバスや、乱闘服、さらに食費に至るまで、その大部分が周辺自治体の財政によってまかなわれているなど、きわめて重大な問題が引き起こされているのであります。(拍手)さらに八鹿町当局は、当日朝から町職員を動員して彼らを激励させるなど、平然と行なってきたのであります。
 警察当局は、当日この暴行現場にいながら、十数時間にわたるリンチを放任したのであります。この状況は、現場で生徒やその父母などが口々に、先生が殺されてしまう、なぜ警察は助けないんだと泣きながら抗議したことでも明らかであります。現場を撮影したフィルムなど動かしがたい証拠が出てきた後、おそまきながら事件後十日にして警察当局は暴力集団の一部を逮捕しましたが、これで現場において暴行を放任してきた警察当局の行動を合理化することはできないのであります。

 そこで私は、政府が次の措置を緊急にとることが必要であると考えますが、総理、関係閣僚の責任ある答弁を求めるものであります。
 まず、政府及び国家公安委員会は、その責任において、このような暴力から市民生活を守るため、機を失せず暴力に対しては厳正な措置をとること、また政府は、地方自治体当局に対して、このような暴力集団に便宜をはかり、彼らの計画する集会への参加を住民に強要するがごとき行動、また自治体財政をそのために不当に支出することなどは、即時やめさせるよう行政指導を強めること、さらに政府は、教育行政の任にある者がこのような暴力集団のリンチに協力、加担し、学校を暴力の場として提供し、暴力による教育への介入を許す行為に対しては、直ちに厳正な措置をとること、以上の点について、総理並びに関係閣僚の答弁を求めます。

 この集団は、自分たちとその同調者だけを同和行政の対象とせよと、同和行政を自分たちの組織の独占的な管理にゆだねろと主張し、この差別行政を地方自治体に強要しようとして、兵庫県だけでなく、すでに大阪、京都、東京などでさまざまな行動を繰り広げています。糾弾の名による不当な脅迫、暴力の被害を受けた団体、学校、個人はすでにたいへんな数にのぼっています。暴力の否定は、民主主義の基礎であります。(拍手)暴力一掃は政党政派の相違を越えて断固としてやらなければならないことであり、いやしくもこれを党利党略に利用するがごときは絶対にあってはならないことであります。

 このような暴力集団の行為に対し、多くのまじめな未解放部落住民はもちろん、広範な人々の中から抗議の声があがっているのは当然であります。
 わが党は、創立以来五十二年、一貫して、未解放部落住民の解放と差別の一掃を日本の民主主義の重要な課題の一つとして、あの戦前の困難な中でも戦い続けてきた政党であります。(拍手)それだけに、われわれは、部落解放の名を悪用したこのような不法な暴力を一掃し、民主政治確立のために奮闘することをここに表明して、私の質問を終わります。(拍手)
  〔内閣総理大臣三木武夫君登壇〕

 さて、次に、八鹿高校の問題でございます。八鹿高校の問題は、学校の中に暴力があるという不祥事でございまして、これは非常に遺憾であるというほかないのであります。
 そこで、文部省としてどうすべきか、そして地方教育行政に対する文部省の責任について御質問がございました。十二月三日に山崎政務次官が兵庫県においでになりまして、兵庫県の教育委員会委員長、それから教育長、それから副知事にお目にかかりまして指導助言をいたしました。
 では、その指導助言の内容というのは何であるかと申しますと、これは、まず教職員の安全というものに配慮して授業の回復をいたしまして、正常な学校運営を確保するということでございます。その結果、授業が再開されるに至っております。
 そこで、同和教育というものを進める場合には、同和対策審議会の答申というものがございますが、その原則というものは、教育の中立性でございます。私は、この立場に沿いまして、文部省は当然、地方教育委員会に対して指導助言いたすべきものと考えております。
 以上、三点にわたりまして私の考えを申し述べて、答弁といたします。(拍手)
  〔国務大臣福田一君登壇〕

○国務大臣(福田一君) ただいま金子議員から、兵庫県八鹿高校における集団暴力事件について質問がありましたので、説明をさせていただきます。
 事件の経緯は、本年七月、八鹿高校の生徒の一部から、クラブ活動として部落解放研究会を結成、正式なクラブ活動として認めるよう学校側に申し入れましたところ、同校教職員会議は、部落解放研究会は外部団体の指導によってつくられたものであり、正式なサークル活動として認められないとの理由でこれを拒否しました。これについて、部落解放研究会の生徒は、十一月十八日から教職員室前ですわり込みを、同月二十一日からはハンガーストライキに入りました。一方、学外では、部落解放研究会の生徒を支持する部落解放同盟南但馬支部協議会が八鹿高校差別教育糾弾共闘会議を結成して、全面支援を行なうことをきめ、十一月二十一日から八鹿町において支援デモを行なうに至りました。

 本件は、このような情勢の中で発生したものでありますが、事件の概要を申し上げますと、十一月二十二日の朝出勤した同校教職員約七十人が、同日午前九時五十分ごろ校長の説得に反して授業を中止し、集団で下校を始めました。これを知った八鹿高校差別教育糾弾共闘会議側十数人は、校門付近において授業を続けるよう教職員側に申し入れましたが、教職員側がこれを拒否して下校したため、直ちに約百五十人を動員し、同校から約三百メートル離れた八鹿町一〇五七番地立脇はきもの店前路上でピケを張って阻止しました。ピケにより進路をはばまれた教職員側がその場にすわり込んで対抗したところ、これに対し、八鹿高校差別教育糾弾共闘会議側は、集団でなぐる、けるなどの暴行を加え、同高校第二体育館まで連行し、さらに同体育館及び会議室等で、再度なぐる、ける等の暴行を加えた上、教職員らをして同和教育のあり方が間違っていた旨の自己批判書、あるいは確認書を作成させ、同日午後十時ごろから同十時四十五分ごろまでの間、同校第一体育館において糾弾会と称してつるし上げ、同校教職員ら五十八人に対し、治療約二カ月から約一週間を要する傷害を与えたという事件であります。
 なお、本件については兵庫県警察において捜査を進め、現在までに十一人を逮捕監禁致傷及び強要罪で通常逮捕し、引き続き鋭意捜査中であると承知をいたしております。

 以上でありますが、御質問のこの問題の行政面についてお答えをいたしますというと、私は同和行政には深い認識を持っておるということをまずもってお答えをいたします。しかし、地方団体の同和行政というものは、地域の実情に応じた適切な措置が必要でございまして、自治体は同和対策事業特別措置法、同和対策審議会答申の趣旨にのっとって、事態に即した自主的判断で適切な同和行政を遂行すべきであると考えます。もとより、行政の自主性を失うようなことがあってはならないと思いますし、また、予算の支出は公正、適切に行なうべきものであると思うのでございます。
 なお、暴力をいかが考えるかというお話でございましたが、ただいま総理からもお答えがありましたように、暴力と民主主義とは絶対に相いれるものではございません。したがいまして、国家公安委員長といたしましては、いかなる種類の暴力、あるいはいかなる階級の暴力にいたしましても、断じてこれは取り締まる方針で、確固たる態度で臨んでまいる所存であります。(拍手)
  〔国務大臣河本敏夫君登壇〕

※→八鹿高校事件関連国会質問一覧 1974/11/22〜1975/03/31